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華耶は雄哉が握った自分の右手を通し、夢の内容をそのまま映像として伝える。
その間たった数秒。華耶の見た夢の中に、確かに慶の姿があったのを確認すると、雄哉は手を離し、目を開いた。
「わかった。俺はこのビジュアルを基に跳ぶ。お前はどうする?」
兄の静かな問いに、華耶はふくれて言った。
「もちろん、行くよ!」
数分後、ジーンズに長袖シャツという服装に着替えてスニーカーを履いた雄哉は、同じように着替えた華耶を抱きよせ、先ほど視た火事の現場を、強く思い浮かべながら目を閉じた。
ヒュンと風を切る音がして、一瞬体が浮く。が、次の瞬間、届いたのは火が燃えるパチパチという音と、ある程度の強さの風に揺れる草がこすれる音、植物の燃えるにおいだった。足元の感触も、平坦なコンクリートではなく、草に覆われた地面である。
「……ちゃんと跳べたようだな」
長距離を跳んだ後遺症で軽くふらつく頭を押さえつつ、目を閉じたままの雄哉は、片腕にしがみつく華耶を地面に下ろしてやる。華耶はすぐに、離れた火元のほうへ走りだした。
「俺も慶を探さないと……」
雄哉は、妹が向かった方向とは逆の方へ大股に歩き出す。しかし、10歩も進まないうちに華耶の呼び声が聞こえた。
「兄貴!!」
その声に、咄嗟に華耶の姿をイメージして跳ぶ。着地した雄哉の視界に入ってきたのは、火に包まれた、研究所のようなビルと周辺の草、そして逃げ出してきて身動きを封じられた、数人の白衣の男達と、超能力でその動きを封じているらしい従弟だった。
少し離れて立っていた華耶が雄哉の傍に走り寄る。どうやら、華耶が視た予知夢の「最悪の事態」には間に合ったらしい。雄哉は、やや呆然とした後、従弟を怒鳴りつけた。
「――慶!!」
従弟は白衣の男達を睨み据えたまま、静かな声でその声に答えた。
「……ああ、雄にぃか」
「慶。お前、何してる?!」
怒りを含んだ雄哉の声に、華耶がひっ、と息を詰める。しかし、慶はそれを無視するかのように言う。
「こいつら、僕らを研究材料とやらにしたいらしいから、データをやろうと思って」
その言葉に怒りのゲージが一気に上がったか、雄哉は再度従弟を怒鳴りつける。
「彼らを放せ、慶! 俺達の能力はこんなことをするためにあるんじゃない!!」
「慶ちゃん、やめて。やめてよ!」
華耶も泣き出しそうな声で叫んだ。しかし慶は聞いていない。
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