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慶は冷酷な笑みを浮かべて、苦しそうに叫んだ。
「放したら最後、僕らは全員捕まって、またあの中に入れられるんだ! わかってんのか、雄にぃっ!」
これではっきりした。慶は街から連れ去られ、この研究所であまりよろしくない扱いを受けたようだ。
「施設は燃えてるし、慶ちゃんのデータだって、もう取りには行けないはずよ。……帰ろ?」
華耶の言葉に雄哉がうなずいた。そこへ白衣の男の一人が叫ぶ。
「そうだ、放してくれ! 俺達だってまだ死にたかないっ」
ところが、慶は怒りを込めた声で低く言い放った。
「やだね。このまま、この火が草に燃え広がり続ければ、いつかはあんたらの服に燃え移る。僕はこのままその体の自由を奪っておくだけで、あんたらを殺せるんだぜ? 生殺与奪権があるのはこの僕のほうだ。今がいい機会なんだ。逃がすかよ!」
慶は、とうとうその超能力をフル活用して白衣の男達の体を操り、火元の研究所のほうへ歩かせ始めた。従弟の怒りも分からなくはないが、やり方が間違っているような気がして、雄哉は咄嗟に近づき、慶を殴り飛ばして気絶させる。
「――助かった……」
慶に体を操られていた白衣の男達は、異口同音にそうつぶやき、その場にへたり込んでしまう。が、火事を消さないことには安全とは言いがたい現状を思い出し、数秒の後、消火の準備に追われていった。華耶もそれを手伝う。雄哉も気絶させた慶を安全な草の上に仰向けにすると、その活動に参加した。
努力の甲斐あってか、火事はそれ以上広がることなく、1時間ほど後に鎮火した。そして、雄哉はまず従弟を抱えて超能力で彼の家に跳び、敷きっぱなしの布団に慶を寝かせてすぐさま華耶を目印に研究所へ戻り、今度は妹を抱えて自宅に跳んだ。どちらもまだ夜が完全に明けきっていなかったため、誰かに見つかることはなかった。
自宅の居間に戻ってきたとき、辺りは薄闇と化しており、華耶は睡眠不足で、雄哉はそれに加え力の使いすぎでへとへとになっていた。そのため、2人は「とりあえず昼まで」と決めて、しばしの眠りについたのだった。
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