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ヒマワリ
「その友達の名前は何て言うんだ?」
研吾さんの頭に乗せられて体が飛ばされないように耐えていると研吾さんが軽い感じで話しかけてきた。
「友達の名前はシノノメ・ヒマワリ! 朝焼けを意味する東雲に植物の向日葵を合わせて東雲向日葵! とても良い子でボーイッシュなショートヘアーで身長178センチで目が鋭くて背が高い無骨な私の恋人で~す」
「恋人でしただろ!」
「研吾さんのいけず」
本気で飛ぶ研吾さんのスピードは速く最初は風圧で体が後ろに飛ばされそうになったけど前傾姿勢を保つことで耐えることができた。しかしこんな状況なので声は自然と大きくなる。
「彼女は私が死んだら自分も死ぬとか言ってたので心配なのですよ~!」
「そうか」
「それと風圧きついし私し高所恐怖症なのですよ!」
「そっか」
研吾さんが素っ気なく答える。
「あ、研吾さんあの家です。近くに降ろしてください、早く!」
研吾さんは彼女の自宅が見通せる電柱の天辺に着陸してくれた。
私は向日葵の自宅をじっくり見た。どうにかして彼女の部屋に潜り込んで無事を確認したいと考えていたからだ。そして進入路を発見した。
2階にある向日葵の部屋の窓が少し開いているのでその隙間から自分一人で侵入することにした。
「研吾さん、あそこの窓までお願いできますか?」
「わかった、傍まで行ってホバリングするので四葉は俺の羽の上を走って窓の枠に飛び移れ」
「はい!」
研吾さんは手筈通り窓が少し開いた窓の前でホバリングしてくれた。私はかなりアグレッシブに動けるようになっていたので羽が上に羽ばたいた瞬間走って窓枠に飛び移った。
私が無事飛び移れた事を確認すると「健闘を祈る」とか言いって研吾さんは離れていった。
私は部屋に入ってまず最初におかしいと思った事があった。それはあのガサツな向日葵の部屋が綺麗だった事だ。以前来た時はもっと散らかっていた。
私は部屋を出て1階に向かった。居間にある横長のソファーには誰かが寝ている。テレビからは下世話なワイドショーがタラタラと流されていて少し耳障りだ。ソファーの一番上に昇り誰が寝ているのか確認すると向日葵の母親が寝ていた。顔を見ると涙が頬を伝っている。テーブルの上に新聞の切り抜きが数枚意味深に置かれていたので私はそこまで移動して読んだ。
どうやら新聞の内容からすると最悪な事態になっているようだ。
記事には17歳の少女が私と同じ学校の私が殺された屋上で何者かに首を絞められて死んだと書かれている。この新聞の切り抜きがここに置かれていると言う事は向日葵が死んだと言うことなのだろう。そしてその事の裏付けるかのように仏壇に向日葵の遺影が飾られていた。
何だかやるせない気持ちでそこから動けなかった。しばらくして窓の外から研吾さんが縁側のガラス戸を突ついて合図している姿が見えた。どうやら心配になって見に来てくれたようだ。研吾さんが足二本を使って器用にガラス戸を少し開けてくれた。私はとぼとぼと歩きそこから外に出た。
「ケンゴサ~ン 向日葵が殺されちゃったよ~」
「そうか、それは御愁傷様」
研吾さんは無表情な顔をして返事を返してくれた。
そして私が泣き止むまで待ってくれた。
「ところで四葉、生き物の転生についてだが」
「はあ」
「通常のルールを知っているか?」
「そんなこと知らないわよ~ グスン、フウェ~」
「うむ、特に人間について語るとだな、概ね人間の次は動植物に転生するらしい。その場合は記憶を維持したまま転生するのだよ」
「・・・」
「そして動植物に転生後、何らかの理由で寿命が来るとまた人間に転生するのだけどこの時は記憶がリセットされるのだよ」
「そうなのグスン、で、それがどうしたのよ!」
「フム、人間から動植物に転生する過程なんだけどな、特徴的な名字や名前を持ちの人間はその動植物の名前の通り転生するらしい。そのいい例が四葉が4枚葉の四つ葉のクローバーになったことだ」
「……よくわからないわ、4枚葉の植物なんていくらでもあるでしょ、グスン」
「ネットで検索してみろ、辞書的なあのサイトでも四葉で検索したらクローバーの説明が一番上に来るのだよ」
「グスン、グスン、じゃぁ研吾さんは名字がカラスなの?」
「ん~ ま~ 間違いじゃないけどもう少しボリュームがある。俺の名字は数字の五に足と烏をたしてゴソクウだ、合わせると五足烏研吾だな。だからかもしれないが5本足のカラスになったのだと思う。因みに八咫烏は別名サンソクウだ、あいつらは足が三本だが俺は5本なのだから俺の方が偉いのだよ」
八咫烏のミニ情報は今はいらない。
「あ! わかったわ! それで向日葵はヒマワリの花に転生したと言うのね!」
研吾さんの話を聞いて曇っていた私の目の前が少し晴れた。
「まあそう言う事だ。例えばだな、ヒマワリの開花には季節外れのこの4月に綺麗に咲いているヒマワリの花があったとしたらそれは怪しくないか? それにそのヒマワリの花が歌など歌ってたりしたら、なおさら怪しいと思うのだがな。
「確かにそんなのがいれば怪しいですね」
「そうだろ、だから俺は断言する、あそこで鼻歌を歌っているヒマワリの花は怪しいと!」
研吾さんが足を指した方角には今の時期、4月には咲いていないはずの1メートルくらいの高さのヒマワリが凛として咲いていた。そして生前の向日葵が好きだったオヤジ風バンド、電波発信局の”こちら偏向放送ブチ噛まし中”を鼻歌交じりに歌っている。
私は無意識に走り出していた。そして叫んだ!
「ひまわり~ ぃぃぃ!」
ヒマワリの花が私の方を向いた。そして目を細めて私を見ている。
「私を呼ぶのは誰?」
「四葉よ!」
「……、あっ! もしか四葉なの。なんでそんな風になっちゃったの?」
「何言っているのよ、あなただって人のこと言えないわよ」
私は向日葵の茎をよじ登り花の中央付近に抱き着き顔を擦り付けた。
「ヒマワリイイイ~ 寂しかったよ~ 怖かったよ~」
「四葉、また会えてうれしわ! でも鼻水とか涙はやめてね」
向日葵も涙を流して喜んでいる。
「向日葵も泣かないでよ、涙で私もグチョグチョだわ」
「おいお前ら、感動の再開はそのくらいにしてくれ」
研吾さんが鬱陶しそうに私たちを見ている。
「あんた、誰!」
向日葵が研吾さんを睨んだ。
「私は研吾という者だ」
「うぁ~ なになに、このカラス足が変! キモイ!」
今の向日葵の顔の方が変顔だ。
「紹介するわね、この昆虫みたいなカラスさんは研吾さん、気のいいオジ様カラスよ」
私は端的に研吾さんを紹介した。
「おい 変な昆虫とはなんだ! それに俺はキモク無いしオジ様と呼ばれるのも心外だ、俺はこう見えて若いカラスなんだぞ!」
私は変とは言っていない。
「キモイわね、・・・その昆虫みたいな体で真っ当なカラスを騙るなんて許せないわ」
向日葵は更に昆虫を強調する。
「誰が昆虫だ、昆虫は足が6本だろうが! 俺のは5ほんなんだよ」
研吾さんが息を切らして怒った。
「四葉、このオッサンと付き合っているの? それならちょっと殺さないといけないわね」
「オッサンとは失礼な、俺はまだ若いと言っているだろが、それに四葉とは今日の朝知り合ったばかりだ!」
「そおよ、向日葵、研吾さんはやさしいオジ様カラスなのよ。私に色々教えてくれるし、ここにこれたのも研吾さんのおかげなのよ」
「……まあいいわ、オッサン! 私の四葉に手を出したら許さないわよ」
「オッサンはやめろ! ん~ 話が進まないな、ところで向日葵、お前はなぜ死んだんだ?」
「うぁ! いきなり名前呼び捨てとかキモイ」
「いちいちムカつくやつだな」
「私も聞きたいわ」
私がそお言うと向日葵は少し間を開けて話し始めた。
「四葉が聞きたいなら話すわね」
「うん」
「私は四葉が殺された後、犯人が誰なのか真相を調べてたのね、そして色々聞き廻った結果、金文オロチが四葉を屋上に呼び出していたと言う情報を手に入れたのよ。それで私は放課後に金文オロチを屋上に呼び出してそして四葉に何をしたのか問い正したの。そしたらあの男私に襲い掛かってきて私を犯そうとしたのよ。私は用心の為に持ってたスタンガンを使おうとしたら逆に取られて私はそのスタンガンで痺れさせられたの。そして身動きできない私をあいつは何度も犯したわ。時間が経って痺れがだんだんひいて手が動くようになったのね。そして渾身の力で私は金文オロチの首を絞めたのよ。そしたら逆上した金文オロチにまたスタンガンで痺れさせられてその後首を絞められてそれから覚えてないわ。目が覚めたらこんな姿でここにいたのよ」
「なんてヤツ! 私のみならず向日葵までも犯して殺したのね、許せないわ」
私は向日葵も金文オロチに殺されたかと思うとムカムカして喉の奥から何かが出てきそうになった。そして一番ムカついた事は向日葵に挿入した事だ。
「私の場合は先っぽしか入れられていなかったからセーフだけど奥まで入れられた向日葵が不憫だわ」
私は処女だから安心してと言いたかったのだが少し言い方を間違えてしまったようだ。
「私が奥まで挿入されて殺されたからって私が負けたような言い方しないでよ!」
向日葵が急に怒り出して強気な言い方で反論してきたのでついつい売り言葉を買ってしまった。
「でも実際私は未遂で向日葵は何度も挿入されたのだからこの場合私の勝ち的な感じだと思うのよね」
もう止まらない。
「純潔で死んだのがそんなに偉いの? よく考えてみて、この場合経験値的にはむしろ私の勝ちだわ、それにあの鬼畜男の事だからあなたが死んだ後死体のまま入れられたかもしれないじゃない。あの男ならそのくらいの事やるわよ!」
「……」
「金文オロチ コロス!」
私と向日葵の意志は合致した。そして拍手の音がペチペチ鳴った。
「お前らよく言った、やられたらやり返す、これが地球に住む者の摂理だ。復讐だ! 復讐するぞ!」
「研吾さんノリノリですね」
私は無表情な顔で言うと向日葵も堰をきった。
「復讐!復讐!復讐! 復讐よ!」
「お~! やれやれ、盛大にやっちまえ」
研吾さんと向日葵がノリノリで踊り出した。
「ところで研吾、何か良い復讐方法は無いの?」
「研吾? お前も呼び捨てしているじゃねーか。まあいい、俺に案が3つほどある。だがその前に少し確認したいことがある」
研吾さんは向日葵の植わっている場所を見た。
「向日葵、お前は移動する事ができるだろ? それに葉っぱを手のように動かすこともできるだろ」
「できるわ」
向日葵は土を蹴って地上に根を2本出し脚のようにしてその場で動かした。その後右手に見立てた葉っぱに力を入れ動かし不要な葉を落とし左腕も作って二本の腕とした、その腕を使ってシャドーボクシングをしている。
「よしよし、上出来だ。では次に四葉、お前は根っこを胴体部分から出せるはずなんだが、腕のような感じに二本出せないか試してみてくれ」
「そんなのできるわけないじゃない」
「まあ試しにやってみろよ」
研吾さんが諭すように言う。
「わかったわ、ん~ う~ あ~ ん~ ……無理!」
イメージがうまくできないようで手が出てこない。
向日葵が私の近くに寄ってきて顔を近づけた。
「四葉、たぶんこれはイメージが大事なのよ、あなた、昔、金魚飼ってたじゃない、あの時水草のアナカリスの茎の真ん中辺りから根が出てきて気持ち悪いとか言って大喜びしてたじゃない、アレみたいな感じよ」
たしかにアソコの毛のようなやつがニョロニョロ出てたので騒いだことがある、
「何となくイメージが湧いたわ」
「それじゃやってみて」
「う~ん」
ポン!
「う~ん」
ポン!
私は二本の髭のような根を出して手のように動かした。
「上出来、上出来」
研吾さんが喜んでくれた。
向日葵は喜ぶ研吾さんの顔を見る私に不満があるようだ。
「四葉、アドバイスした私に何かないの!」
向日葵が顔を私に寄せてきた。
「アリガト、向日葵! チュッ!」
向日葵のホッペにキスをすると照れている。
「俺には無いのか?」
そお言いながら研吾さんが近寄ってきた。
「研吾はダメよ」
向日葵がむげに言い放ち私を抱いて近寄らないようにした。
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