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陽が落ちて数時間後、大きな満月の月を背に研吾さんがバタバタと羽音を立ててやってきた。
「おい、お前ら起きろよ」
「ん~ 研吾さんおはようございます」
「向日葵も起きろよ」
研吾さんが向日葵を突くと目を覚ました」
「研吾、痛い、突くな」
向日葵は寝起きなので機嫌が悪い。
「ほら、お前ら行くぞ」
「研吾さ~ん 何処に行くの?」
私は目をこすりながら聞いた。
「ついてくれば解る、ほら、早くいくぞ」
研吾さんが先頭を切って歩き始めた。私は向日葵の頭の上に乗って研吾さんの後をついて行く。
歩く事15分、目的地に着いたようだ。そこはけっこう大きな農園で周りには木しか無い。
「ここだ、着いたぞ」
「凄くいい匂いがしますね」
私はこの匂いになんだか懐かしさを感じた。
「この一帯は鬼門隼人と言う農家のオヤジが運営している桃園なのだよ。この男の母親で今は亡くなっているが鬼門ハナと言うお婆ちゃんがいたのだよ。そしてこのお婆ちゃんが70年間害虫を採って溜めた大壺が今日の目的なのだ。ほら、そこにあるやつだ。この大壺の中に銀蚕蠱がいるはずだ」
研吾さんが高さ1.5メートルくらいの大きな壺を指さした。
「向日葵、蓋を外してくれ」
向日葵は壺の上に置いてある厚く丸い木の蓋をずらして横に置いた。そして私たちは中を覗いた。
「よく見えませんね?」
私が悲観的に言った。
「本当にいるのか?」
向日葵もあまり信じていないようだ。
「この前見た時はいたから間違いないと思うぞ」
「この前っていつだよ?」
「5年くらい前かな」
「……、研吾、ちょっと中に入って咥えて壺から出してくれないか」
向日葵が適当に言った。
「なんで俺がそんな事やらなくちゃいけないんだ! 向日葵が中に入って取り出せばいいじゃないか」
研吾さんがキレると向日葵が逆ギレをした。
「ハ~ッ! 私がこの中に入れるわけ無いだろ。研吾の大きさだから入れるんだよ!」
私はいたたまれなくなり間に入った。
「研吾さ~ん オ・ネ・ガ・イ」私は可愛く頼んでみると、「四葉がそお言うならちょっと取って来るかな」 研吾さんは私には優しい。
「なんで四葉なら行くのよ! まあいいわ、早く行ってきて」
研吾さんは向日葵を睨みながら壺の中に入っていった。
「うぉ~ こいつ噛みつきやがった! イタッ! イタタタタッ!」
「お~い 研吾! 早く上がって来いよ」
向日葵が叫ぶと研吾さんが壺から飛び出してきた。そして口に咥えた銀蚕蠱を下に投げると向日葵の足元に落ちた。
「うわ~ デカいしキモい!」
向日葵が後ずさると私は向日葵の頭の上から落ちて銀蚕蠱の前に落ちた。そして銀蚕蠱は口を大きく開いて私の方へ威嚇している。
研吾さんは私を助けようとして私の前に立ちはだかった。 ???ように見えるが涎が異常に垂れていて獲物を狩る眼をしている。
「あ! 研吾、落ち着け、落ち着けよ、そのままじっとしてろよ!」
向日葵も察して研吾さんを止めた、だが向日葵の叫び空しく研吾さんが電光石火の速さで銀蚕蠱を食べてしまった。
「あ~っ! お前が食べるんかい!」
向日葵が唖然とした表情で突っ込みを入れる。
そして研吾さんは食べ終わった後バツが悪いようで項垂れている。
「すまん、ついつい旨そうで、自分の制御ができなかった」
「研吾さん、美味しかった?」
私は場を和らげるためにその場にそぐわない質問をしてみた。
「これがまたタラの白子のようなクリーミーな味がして美味だったよ」
「美味だったじゃないわよ! どうするのよ、計画がおじゃんじゃん」
向日葵が必要以上に攻める。そして攻めらている研吾さんはまたショボンとしている。
「まあまあ向日葵、研吾さんも野生の本能には抗えなかったと言うことで、それに私は研吾さんの野生的なところが見られて少し楽しかったわ」
私は研吾さんを擁護したが研吾さんの行動は取り返しのつかない事には変わりない。
そして向日葵は怒った表情から急に笑い出した。
「もお~ しょうがないわね、しかも味の感想なんかいらないわよ、それに研吾のあの時の食べ方ときたらまるでそこらへんにいる烏みたいだったわよ」
「だめよ向日葵、研吾さんは基本烏なのよ。それに私には研吾さんの気持ちが十分すぎるほど解るわ。私もアイネンハイネンのミルフィーユが目の前に出されたら食べるなと言われても食べていたわよ」
「もおいいわ、研吾、さっさと次の案を出しなさいよ。確か3つ目の案があるとか言ってたわよね」
何だか向日葵が研吾さんに対して姉貴風を吹かしている。研吾さんも今回の失態があるので反論しない。
「3つ目の案はある事はあるのだがはたして復習と言えるかどうかは何とも言えないぞ」
研吾さんにしては何だか声が小さい。恐らくおすすめ度が低いのだろう。
「聞いてあげるから言ってみなさいよ」
向日葵は少し威張りすぎだ。
「向日葵、研吾さんにもう少し優しくね、こんな烏でも私はお世話になっているのだから」
「四葉の方が言い方ひどいわよ」
「コホン、では3つ目の案を説明する。簡単に説明すると君たちの方が寿命が遥かに長いので金文オロチの死を見届けることができると言うことだ」
「全然解らないわ、ヤツの死を見届けたからって復習にならないじゃないの」
「ん~ 金文オロチの末期に立ち会うことができればそれは何でもやりたい放題と言うことだ。例えば病院で死期を迎えようとしているのなら点滴に混入物を入れたり、生命維持装置を止めたりできるだろ。非力な君達にはうってつけの殺し方だと思うぞ」
私と向日葵は顔を見合わせた。
「それなかなか良い案ね、それでいいかも、四葉もそれでいい」
向日葵が笑顔で私に言う。
「私もそれで良いわよ」
あっけなく話がまとまった。
「ところで研吾さん、私たちの寿命ってどれくらいなの?」
「そうだな、早く転生したいなら向日葵はヒマワリ油の工場にでも行って加工されれば良いし、四葉は葉っぱを4枚ちぎられたら転生できるよ、但し寿命を全うせず適当に転生したら次は何になるか解らないけどな」
「研吾、あなたふざけているとトンビのエサにするわよ」
向日葵が怒っている。
「ふんっ! トンビなど敵ではないわい。それに冗談で言っているわけじゃないぞ、そういう事もできると言いたかったのだよ。でもまあ、普通に寿命を迎えるなら100年くらいかな~」
向日葵が傍にいるなら100年くらい問題ない。
「それくらいなら我慢できるわ」
向日葵が私を見て言った。
「それじゃ方針も決まった事だし俺は少し旅立つよ」
研吾さんは私の頭を撫でた。しかし向日葵が睨んだのですぐに離れた。
「お前らはヤツが移動したら見失わないように一緒に移動して監視するんだぞ」
「フン! わかっているわよ」
向日葵が小声で言った。少し寂しそうだ。
「ではしばしサヨナラだ」
そお言うと研吾さんはどこかに飛んで行ってしまった。
「バイバイ」
短い間だったけど見慣れた顔がいなくなると寂しいものだ。私が悲しそうな顔をしていると向日葵が私に顔を近づけてきた。
「じゃ四葉は私の上に乗って、夜のうちにヤツの家の近くに移動するわよ」
「金文オロチの家知っているの?」
「知ってるわ! 四葉の事を調べてた時にヤツの家の住所も調べてあるから。ヤツの家の向かいの高台に神社があるのでしばらくはそこで様子を見ましょう」
向日葵は私を乗せてヒタヒタと歩きだした。
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