復讐の時

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復讐の時

 研吾さんと別れて70年が経った。私と向日葵はその間金文オロチの移動に合わせて付かず離れず適度な距離をとって観察した。そして岡山に来て2年、私と向日葵は金文オロチが観察できる近隣の高台の上に並んで植っていた。そこではほとんど冬眠状態になり二人とも動くことも喋ることも無く過ごしていた。   ヤツは今、岡山県岡山市北区吉備津神社付近の病院付きの老人ホームにいる。  研吾さんと別れてから今まで、金文オロチは2人の女性を殺している。しかしこの男は人を殺してもなぜか捕まらない。なぜ捕まらないのかと言うと警察がただ単に無能なだけではなく絶妙に別の容疑者が存在してそちらが捕まってしまうからだ。これはもう神様が無能なだけである。  日没近く、淡雲が赤く染まる頃、太陽を背に逆光の光を浴びて研吾さんが飛んでやってきた。 「おい! 四葉、向日葵、起きろ!」  何だか聞き覚えのある声がするので目を開けると懐かしい顔が目の前にいた。 「あっ! 研吾さ~ん 久しぶり」 「四葉は呑気だな、向日葵なんか突きまくったのに起きやしない」  向日葵は外部からのアクセスを遮断して寝ているので何をされても起きない。 「私が起こすわ、今は根っこが繋がっているから起こすのは簡単よ」  私は土の中で根っこをクネクネさせた。 「ひゃぁ~ 四葉! くすぐったい」 「向日葵、起きたわね。研吾さんが来たのよ」 「もお~ 後20年は起こさないでって言ったじゃない、それに変態烏が来たからって起こさないでよ」 「そんな事言わないの! それにこの後20年も寝てたらヤツは死んでしまうわよ! ねえ、研吾さん」  研吾さんが無表情な顔をして私達を見ている。 「お前らそんなに呑気に構えてていいのか、ヤツの様態が急変したぞ。さっき病院に潜入してこっそり見てきたのだが、どうやらガンがリンパに入って余命いくばくらしい。後持病の糖尿病もやばくなっているのでもうダメかもしれないと看護婦が話してたぞ。意識も無いらしい」 「そお、やっと私たちの出番ね、向日葵、ヤツの病室に行くわよ」  私と向日葵は地中から足を出した。 「ちょっと待て、向日葵、コレ持っていけ」  研吾さんが小型のカッターナイフを向日葵に投げた。コレで殺せと言いたいのだろうけどこれじゃ致命傷を与えられないと思う。だが無いよりましだ。  私と向日葵は病院に侵入した。  向日葵は私を頭の上に乗せてヒタヒタと2階に上がった。この老人ホームは病院の機能も兼ね添えているので医者もいれば看護婦もいる。だが人手が少ないようで受付にも誰もいないし2階に上がる道すがらも誰にも会わなかった。  204号室の前に到着した私と向日葵は壁に表示されている金文オロチと言う名札を確認した。贅沢なことに一人部屋だ。そして扉を少し開き医者や看護婦がいないことを確認して中に入った。部屋の中には金文オロチがベットに寝ており生命維持装置が置かれていて人工呼吸器が装着されている。  向日葵はカッターナイフをベットの横に置き金文オロチを見下ろした。 「こいつ、身内は一人もいない寂し奴なのに金だけは持っているのよね。それにしても健やかな顔をして寝ているわね、 ……何だかムカつくわ、本当にムカつくわね、めちゃくちゃムカつくわ!」  向日葵が管を巻いた。 「そうね! せっかくだから殺す前に少し話がしたいわね、目だけでも開かないかしら」  私は淡々と言った。  すると研吾さんが飛んで部屋に入ってきた。 「おまえら、俺に感謝しろ、ホレッ、コレ使え」  研吾さんは注射器を向日葵に投げた、そして生命維持装置の上にとまった。 「研吾、この注射器の中身は何?」  向日葵が質問をした。 「それはエピネフリンだ、覚醒させるのに使えるかもしれない」 「これを打って目を覚まさせると言うのね、でも私は注射器なんて打ったことは無いわ、四葉できる?」 「できるできないと言うより注射器を持てないわよ」 「そうね、では私がやるわ」 「まあ、待てそれだけじゃ不十分だ、ちょっと待ってろ」  そお言うと研吾さんは窓に近づいて開いた。すると大きなクマバチが入ってきて金文オロチの心臓の辺りにとまった。 「え~ クマバチの洋子だ」  研吾さんがテレながら紹介してくれた。 「洋子といいます、生前は研吾の妻というか正確には離婚した後に死んだので元妻です以後お見知りおきを」  研吾さんの元奥さんか、何だか気が強そうだ。 「洋子さん来てくれてありがとうございます、私は今の研吾さんの彼女で四葉と言います。以後お見知りおきを」  冗談を含めて毅然と挨拶をした。  「そうですか、研吾の彼女さんですか。研吾には借りがあるので無理やり連れてこられました。なので私の事はお気にせず」  洋子さんも丁寧にあいさつしてくれた。 「冗談ですよ」 「冗談ですか?」 「冗談に決まっているだろ!」  向日葵と研吾さんが被って言った。   「まあなんだ、彼女を呼んだのは少し手伝ってもらう為だ。まず最初にブスっと洋子に心臓を刺してもらいアナフィラキシーショックを起こさせ覚醒させる。そしてアナフィラキシーショックを鎮める為にエピネフリンを投与する。エピネフリンは筋肉注射だから心臓辺りにブスっと刺してしまえばいい」 「研吾、お前いいやつだな、こいつにはただ殺すだけじゃなく一言いってやりたかったのよ」  向日葵が意気揚々と話す。  研吾さんが親指を立てると向日葵も親指を立てた。この二人意外と気が合っている。 「私たちの姿を見たらビックリするわね」  私は金文オロチの額の上に乗った。そして何だかドキドキしてきた。 「ではいきます」  クマバチの洋子さんがお尻を持ち上げ針を出し心臓に一刺した。10秒くらい何も起こらなかったが急に生命維持装置のバイタル値がブレだし金文オロチは痙攣し始めた。 「血圧低下、心拍低下、向日葵! 早くエピネフリンを打て!」  研吾さんが叫んだ。 「ちょっと待って、まだ心の準備が」  向日葵がドギマギしている。 「早く打て!」  生命維持装置がビービー言っている。向日葵が目を瞑ってブスっと心臓にエピネフリンを打つと生命維持装置のバイタル値が全て正常に戻った。 「目が開かないわね」  洋子さんが瞼を足で蹴ると目がパカッと開いて洋子さんが驚き後ろに転んだ。私と向日葵はヤツの視界に入るように移動した。研吾さんも近寄ってきた。洋子さんもそろりとのぞいている。 「何だ! ヒマワリの花がいるぞ、後カラスか? このぼやけて見えるのはなんだ?」  金文オロチはたどたどしく、弱弱しく喋った。  どうやら私は近すぎてボヤけているようなので向日葵の花びらに飛んで掴まりヤツの視界に入る位置に移動した。 「あなたに殺されてからずっと私と向日葵はこの時を待ってたのよ、やっと復讐できるわね、ざまあみろだわ」  私は言いたかったことを言えたので満足だ。 「何だ? 緑の葉っぱが喋っているぞ」 「四葉、もう限界だ心拍低下、向日葵! 早く殺せ!」 「昔年(せきねん)の恨み、死ね~っ!」  研吾さんに言われた向日葵は金文オロチの首を絞めてた。  生命維持装置の異常を察知した病院スタッフが走ってくる足音が聞こえた。 「ヤバイ! 四葉、俺に乗れ」  研吾さんが私に向かって叫んだ、私は研吾さんに言われるままに飛び乗った。そして後ろを振り向くと向日葵はまだ首を絞めている。 「キャ~、先生、ヒマワリの花が患者さんの首に巻き付いています。窓際には変なカラスがいます」  看護婦が叫び医者が駆け付け金文オロチの首に巻き付いた向日葵の手を剥がそうとしている。 「俺の最後はヒマワリの花に殺されるのか、それも俺らしいなハハ そういえば最初に殺したのは四葉と言う女だったな、次が向日葵とか言う女だったな。あ~ それでお前らが復讐に来たのか」  金文オロチが断末魔なのにニヤけて喋る。  その不気味な顔を見て向日葵は物凄い形相をしている。首を絞めるだけでは殺しきれないと悟った向日葵はベットの横に置いたカッターナイフを持った。 「お前なんか死んでしまえ!」  向日葵がカッターナイフの刃を金文オロチの首にあて素早く横に切り裂いた。すると大量の血が噴水のように噴き出し向日葵と医者や看護婦に飛び散った。 「ヨツバァ~ ドロップキック!」  向日葵が私に向けて叫んだ。私は察して研吾さんの羽の上を走った。研吾さんも察して羽を私の走りに合わせて大きく羽ばたかせた。  私はその勢いで生命維持装置まで飛んだ。そして人工呼吸器の電源レバーを蹴り折りOFFにした。モニターに映る心拍は徐々に下がり警報ブザーが鳴り響く。  医者と看護素は後ろにこけて放心している。  その隙をついて私たちは窓の外へ飛び出した。  私と向日葵は窓から飛び出す瞬間金文オロチの方を見た、するとヤツは幸せそうな顔をしていた。  
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