1、袖振り合うも他生の縁

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1、袖振り合うも他生の縁

月の、丸くない夜に 「あたし、死んでもいいわ。」知って、 貴方の前のあたし。一緒。 ああ。 袖振り合って、貴方の衣の裾、触れた、 あたしは、死んでもいいって。 吐き出せず、のみ込んで そのまま、埋葬されてしまって、 貴方の手で。これは祈り。 埋めて、その手のひらで、 解いたのと同じくらいの温度で。 華奢な。折れちゃわないか、 力を()めずにたしかめる、方法、 「別に。」、あたしは沈黙。 衣、触れられずに、(くう)を切った、 貴方も沈黙。 今晩も目頭熱くなって、 貴方のこと考えた、どうしようもないこと。 頬の内側噛みしめて そのまま転がって、アスファルト。 少し、ほんの少しでも貴方の温度、 感じるのですらチラつく、十字架。 他人に降り注いだ水が棘を持って 口の中に入ってくる、戻ってきて、返ってきて、これは自傷。 口を押えた、貴方のこと、何も言えない、 井戸にも叫べない、種が(はじ)けて、 「あたし、死んでもいいわ。」知らない、 あたしの前の貴方。一緒じゃない。 月を見た、見るしかなかった。 ああ。ああ。 「あたし、死にたくないわ。」 月は丸かった。
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