3、恋文

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3、恋文

まんまるの、二重の線に(ふち)どられた、 月を思い出す、月を想っている。 どうしようもないくらい、(まぶた)の奥に。 月を見返したとき、直視したとき、 忘れられるわけない、って、思ったこと、想っている。 手を伸ばした、って、 言葉を(ささや)いた、って、 届かないこと、わかっている。 月は無機物。僕は有機物。 僕とは、違うんだ、って、こと、わかっている。それでも、(そら)に手、伸ばしてしまう。(くう)()く、って、わかってるんだ。 夜空は、美しくて遠い、 遠いから美しいんだ、って。 遠くにあるから、美しく見えるのかも、月。月を想うのは、真夜中しか許されないから。夜空に浮かんでいるとき、だけ。 目をあけて、眠たいのを(こら)えて、 涙が出るのを、欠伸(あくび)のせいにして。 月を、想っている。 雲が出ていたって、瞼の奥に、ずっと、在るんだ、消し去ってくれよ。月から落とされた隕石抱えて、僕は、重たい、って、言って、投げ出したくて、月がどうしようもなく、其処(そこ)に居るのが、辛かった。辛いんだ、愛を囁くたび、僕の中の、硝子(がらす)が、()くなっていくんだ、助けてよ。 君が、有機物なら、良かった。 僕と、一緒なら、良かった。 ああ。今夜も、月が、綺麗だ。
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