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真夏の太陽が高くなって、じりじりと照りつける。
まわりの夏草が野暮ったくみえるほど、力なくしおれている。
アタシも弟もがっくりと力が抜けてしまった。
おかあちゃん、おかあちゃん・・・
いつまでも寝てないで、起きてよ。ねえ、おかあちゃんてば。
ごはん、食べにいこうよ。
虚しい鳴き声だけが入道雲に吸い込まれていく。
だけど。
猫はいつだってどこだって警戒を緩めちゃいけないんだ。
アタシの耳と鼻が本能的に反応した。
どこからか人間の汗臭いにおいが漂ってきた。大人の男たち・・・人数が多そうだ。猫たちが嫌う、太くて怒鳴るような声も聞こえる。
どんどん近づいてくる。それもアタシたちの棲み処へ。
「や、見ろ! 物置小屋の下に野良猫がいるぞ! 」
「これから建設工事だっていうのにしょうがねえなあ。保健所にでも来てもらって殺処分だな」
「しっ! しっ! シャベルで野良を追い出すか」
黄色いヘルメットをかぶった男が、のぞきこんでいる。その手には大きな工事用のシャベルが握られていた。
ガツンガツンとシャベルで地面を叩きはじめた。シャベルの鋭い先端がアタシたちの鼻先を撫ぜた。
アタシたちは逃げなければならなかった。
おかあちゃんを置いて・・・
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