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「学校の先生がね、野良猫に餌付けしてはダメだって注意されて。それでこれなくなっちゃったの。実は、あの近所に町内会のうるせえジジババがいてさ」
南中学校の生徒が野良猫たちに餌を与えているところを目撃したらしい。野良に餌付けするとはけしからん、町が汚くなる、教育がなっとらん、などとクレームが来たのだという。
「心配はしてたんだよ。それで三人で話しあって、あなたたちに名前をつけてあげたから。お母さんはシジミみたいな模様をしてから、まんまでシジミ。あなたは白い毛に黒い模様が入っていて牛みたいだからモーモちゃん、サチが抱っこしてるのは黒い部分が広いからゴマ助。ゴマ助はオスだよね?」
ポニーテールが一生懸命になって話してくれている。
アタシは嬉しくなった。アタシたちは見捨てられていなかった。しかも、名前までつけてくれて、ありがとう・・・
で、しもぶくれの子はサチという名前なんだ。サチは弟を抱いたまんまだ。弟はゆりかごに揺られているみたいに、気持ちよさそうにしている。
「あなたたちの寝床ね、あのあたりにマンションができるんだって。だから工事中になって、立ち入り禁止なるんだよ。さっき、工事用のダンプカーを見た」今度は眼鏡が予想外の説明をしてくれた。「塀ができると、猫ですら入れなくなっちゃうからね」
アタシたちは強制退去というやつなんだろう。
でも、おかあちゃんはあそこに置いたままなのだ。
せめて、お花がたくさん植わっている場所に移してあげたかった。おかあちゃんがお星さまになるまで、お花の門番さんに見守ってもらおうと思ったのに。もうあそこへは戻れない。戻れば怖い人間の男に捕まって、保健所とかいう恐ろしい場所に連れて行かれてしまうんだ。
アタシは泣いた。
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