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おかあちゃんのあとに弟とアタシが続いた。
春の草花がたくさん咲いている野原の真ん中を歩いていくと、急に地面が揺れだした。
おかあちゃんが止まって、アタシたちに注意した。
(道路を渡るから、クルマに気をつけるんだよ。わたしがヨシというまで、動いちゃダメだからね)
地面が揺れたのは地震のせいじゃなくて、人間の乗り物のせいだった。
黒くて丸い物がグルグル回転しながら物凄い音をたてて突進してくるのだ。
アタシもあのバケモノの恐ろしさは知っていた。
野良仲間がはねられて、空高く飛んで行ったかと思うと、地面に叩きつけられる瞬間を何度も見たことがあった。悲惨だった。
だから道路を歩く時は用心に用心をしなければならないのだ。
アタシたちは草叢の陰に隠れてクルマが来なくなるのを待った。
たくさんのクルマをやりすごすと、ようやく静かになった。
(ヨシ。今のうちだよ!)
おかあちゃんがニャッと短く号令をかけた。
一気に駆け足で道路を渡った。弟の動きが予想以上に早かったのにはちょっぴり驚いた。
(あんた、やるじゃん)
アタシがほめてやると、弟はみょーみょーと照れている。
(油断しちゃダメだよ。本番はこれからだからね)
アタシたちよりカラダの大きいおかあちゃんが見下ろす。
道路の端っこを小走りに抜けていくと、目的の場所に到着した。
どこからか、とてもいい匂いがする。
しょうゆとネギとカツオ節の匂いだと、おかあちゃんが教えてくれた。
(きょうはえんかいがあるみたいだねえ。けっこう、けっこう・・・)
おかあちゃんがつぶやいている。
そこは道路に面したお蕎麦屋さんだった。
表玄関の扉は閉まっていたけど、裏の勝手口の扉はひらいたままになっていた。
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