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(こっちだよ)
おかあちゃんがそろりそろりと勝手口まで忍び寄った。アタシと弟もあとについていく。
そこは厨房という場所で、人間のご飯の材料が並んでいるんだって。目の前に大きな台があって、とてもいい匂いがした。
注意深く、当たりの気配を伺いながら中を覗くと、そこには誰もいなかった。奥の別の部屋から人間の話声が聞こえる。
(今のうちだよ!)
おかあちゃんがひょいとジャンプした。
アタシも真似をして、目の前の大きな台に飛び乗った。
たくさんのお皿にいろんな食べ物が並んでいた。
アタシは丸々と太った焼魚をくわえた。
おかあちゃんはあたりをクンクンと匂いを嗅ぎながら、水場の台へ飛び移ったかと思うと、赤くて四角い塊りをくわえた。
弟はまだジャンプできる力が備わっていないらしくて、その代わりに、床に置いてあった白い箱の中に前脚を入れて何やらつかみだした。
(わ、冷たいよお。氷が入ってるんだ。ほら、見てお姉ちゃん!)
弟は細長い魚を口にくわえるところだった。
(お前たち、ずらかるよ!)
おかあちゃんが勢いよく飛び降りた。
ガシャン!
その拍子に何かが落ちて、大きな音がした。
すぐに人間たちがやって来た。
「ああああ! こらあ! このドロボー猫がああ!」
「待てええ!」
誰が待つもんかい・・・アタシたちはすたこら一目散に逃げた。
四つ足動物の方が速いんだよー。
(焦っちゃダメだよ!)おかあちゃんが咥えていた獲物をポトリと落すと、今度は弟の背中を咥えた。(クルマにひかれたらどうするんだい!?)
アタシは蕎麦屋の人たちが追いかけて来ないか気が気でなかったけれど、どうにか大丈夫そうだった。でも、物騒な怒声はしっかり聞こえた。
「この馬鹿猫があ! 今度来たら、毛をむしってライオンの餌にするぞお!」
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