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道路を無事横断してしまえば、その先はアタシたちの縄張りだった。
草の絨毯がアタシたちの姿を隠してくれるのだ。背の高いハルジョオンの花が門番になってアタシたちを守ってくれるのだ。
ねぐらの物置小屋まで追ってくる人間たちはいなかった。
とても静かな時間。
そよぐ春風が気持ちいい。
アタシたちは陽だまりの中で戦利品を広げた。
さっそく、大きな口をあけてかぶりついた。
おいしいなあ・・・
おかあちゃんと弟とアタシ。おとうちゃんはいないけど、すごく楽しいごはん時だった。
(おかあちゃんが食べてるのなあに?)
アタシは、おかあちゃんが抱えている赤くて四角い塊りが気になって、前脚でつついてみた。
(これはねえ、マグロのサクというモノなんさ。あっさり味で、コクがあって、そりゃうみゃいのさ)
おかあちゃんはちぎったかけらをアタシにくれた。
(ふーん、おかあちゃんは何でも知ってるのね)
(そりゃそうさ。あんたたちと生きてるとしつきが違うんだよ。お食べ、ビックリするから)
誇らしげに啼いた。
アタシはマグロの切れ端を口にしてみた。
ホントだ。まろやかな甘みと深い舌ざわり。鼻へぬけるとろりとした魚の匂いがなんともいえない。
弟が寄ってきた。
(ほれ、あんたのもあるよ)
おかあちゃんは前脚と顎を器用に使って、弟の分を切り分けた。
(じゃあ、おかあちゃんにも僕の魚を半分あげるね)
弟はぐちゃぐちゃになった魚を、おかあちゃんの前にぽとりと落とした。
(あれま、もう少しきれいに食べられないものかねえ)
笑っている。
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