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(おかあちゃん、どうしたの?)
アタシと弟は驚いてすぐに寄り添った。前々から体調が悪いといっていたけど、きょうは元気にジャンプしてごはんをゲットしたから、まだまだ元気なんだと安心していたのに・・・
おかあちゃんはゆっくりと頭をあげて、アタシたちを眺めた。おかあちゃんの眼はちっとも元気そうじゃなかった。
(わたしはね、もうじき空のお星さまになるんだよ。お星さまがこちらへおいでって、呼んでるの。もうあまり時間がないわ)
(そんな。おかあちゃん、もっとアタシたちにいろんなことを教えてよ。お星さまだなんて、嫌だよ!)
カラスの撃退法、猫たちに悪さをする人間とそうでない人間の見分け方、危ない道路の歩き方、ご飯狩りのコツ、寒い冬のしのぎ方・・・まだまだたくさんあるのに。
(おまえたちには一通り教えたつもりだよ。あとは修練を積むんだよ。そうすれば、なにもおそれることはないからね)
(シュウレンヲツムってなあに? おかあちゃん、難しい言葉も知ってるんだね)
アタシはおかあちゃんの口のまわりを舐めてきれいにしてあげた。
(およし!)おかあちゃんは前脚でアタシの顔をパシンとはたいた。(悪い病気が感染らどうするつもりだい? あなたは、まだ弟の面倒をみなきゃいけないのよ)
(だって・・・)
アタシは悲しくてさびしくて、細い声で鳴くことしかできなかった。
弟があいだに割ってはいった。
(僕なら平気さ。今日の僕の活躍を見たろ? まだ体は小さいけど、もっともっと高くジャンプできるし、駆けっこだって負けるもんか)
アタシたちのまわりを元気よく歩く。
(ふぁあ、その意気、その意気!)
おかあちゃんが嬉しそうに尾っぽを踊らせた。
それから、ゆっくりと立ち上がった。体が震えていてとても苦しそうだ。
(少し寝るよ。疲れたからね)
おかあちゃんは物置小屋の架台の下に潜りこむと、丸くなって、すぐに目を閉じた。
その日から、おかあちゃんは一日のほとんどを寝たままで過ごすようになった。
食事はアタシと弟で分担して調達しなければならなかった。アタシが狩りに行くときは弟がおかあちゃんのそばにいて、弟が狩りに行くときはアタシがおかあちゃんの看病をした。
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