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でも収穫が毎日あるわけじゃないので、お腹が空きすぎてどうにもならない日もあった。そんな日は家族そろって架台の下で寝て過ごした。
日を追うごとに、陽気が暖かくなっていく。
遠くの森の木々が深い緑色になり、カエルの鳴き声も夜な夜なうるさくなってきた。
おかあちゃんの具合は良くなったり悪くなったりの繰り返しだったけど、桜が咲いていた頃よりはさらに辛そうだった。
アタシと弟はお蕎麦屋さんのスキを狙っては、ご飯を頂戴していた。勝手口が閉まっている時はあきらめたけど、チャンスは朝昼晩といつでもあった。今は、たまに暑い日もあって、勝手口が開け放ったままになっていることがあるのだ。よくわからないけど、これ見よがしにお魚の煮つけや生魚のアラがお皿に置いてあるときもある。そういう時こそ、匂いをよく嗅がなければならない。毒が盛られていることもあるそうだ・・・おかあちゃんからの注意だった。幸いなことに、今までに独特の禍々しい異臭を嗅いだことはなかった。
そんなある日のこと。
アタシたちが架台の下でくつろいでいる時だった。
風が人間のにおいを運んできた。
アタシの耳がピンと立つ。弟も警戒の鳴き声を漏らした。
おかあちゃんは眼を閉じたままだ。
人間の話声は、確実にこちらへ近づいていた。
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