32 鼻ピアスから覗く未来

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「ならないって言ってるだろ」  ぷすっと、メオの頬から空気は抜けた。 「そうは言ってもさ。心配になるなっていうほうが無理ってものよ。見たでしょ、今の。隙あらばやってくるのよ。ああいう人たち」  遠ざかったYOYOの声を振り返る。親指でぶっきらぼうに差しながら、『ホント、気をつけてよね』と言おうとした。  両の手のひらで挟まれた私のほっぺ。強引に戻される顔の向き。 「おれだけ見て。おれだけ、信じてよ。……あと、おれじゃないやつにすぐ顔を近付けるの禁止だぞ」  がっちりと私の顔を捕まえたまま、またもやメオは私にキスをした。 「ちょっと! こういうことしてるから、寄ってくるのよ! やめよやめッ」 「やだよ!」  やだよって、ちょっとあんたっ!  がちんと歯がぶつかるキス。力が入って硬くなった唇。  無理やり与えられたのは押し付けがましい口付けだわ。さっきの柔らかさも優しさも、どこへいっちゃったのかと思うくらいだった。  大体、顔を近付けるのがどうのこうの言われたって、私から近付けたわけじゃなし! 何なら、メオからも近かったでしょ! 寧ろ三人でキスできる距離だったわよっ!  そういう近さであらわれるヘイヘイYOYOが悪いのよッ私のせいじゃないわあッ! メオがキスされなくてよかった!! 「おれのこと信じてよ!」 「まだ言うのっ、それ! むぎっ……!」  背けようとした顔はがっちりと捕まっている。  ひたすらに、ひたすらに唇を奪われていると。  なんだか……。だんだん……。  腹が、立って、きちゃって。 「信じてないわけじゃないって、言ってるでしょッ!」  両手を伸ばし、メオの頭をがしぃっと捕まえた。元から近いそれを引き寄せ、そして、そのまま。 「んっ!? んんん!? み、みふぇいゆ……っ? んぉん、ん……っ!?」  私の、超本気のキスをしてやった。  逃すもんですか。そこそこの経験者をナメんじゃないわよ。  目を白黒したって離してやらない。  応戦を始めたメオの舌にだって……負けてたまるものですかっ! 「ん……っん……!」 「ん、ん……っ」  そして、唇が離れ。  へなへなと屈み込んだメオを前に、私は内心で勝利のガッツポーズを見せていた。 「ふんっ!」  ざまぁないわ! 私、伊達に元彼の数は多くないのよっ! 嬉しくはないけどねっ。  歩き去る私の背中に、メオは情けない声を投げてくる。腰が抜けちゃったんですって。  へっ。街路樹相手にハグでもしながら反省するといいわ。  まばらな人並みを眺める。  誰かが汗水垂らして舗装した道を擦れた足音を立てて早足で歩く。  そうして私は、やっと見つけたベンチに、ガクガクの足腰でたどり着いたのだった。  くそお、勝ったとおもっ……思ったのに。  いいや、勝った。勝ったわよ! 最後まで立ってたヤツが勝利だって、以前にメオの部屋で読んだよくわからない汗クサ物語に書いてあったもの!  ミレイユ・リエット。ここに大勝利なりっ!  ………….。  ………………。  暫くして考えてみたら、今のメオはホモに襲われたらひとたまりもない状態だと気付き、大急ぎで戻ったよね。  足、ガクガクだったけど。  やっとの思いで街路樹までたどり着くと、メオは木を背もたれにして足を投げ出し、座っていた。 「.……ヨー、ヘイヨー。なんか違うなぁ。手か? 手が足りないのかっ? よし。──YOYOッヘイYOッ! ミレイユちゃんヨゥッ! 勘弁してくれYO! 可愛いッハニハニおれのベイヴェッ……噛んだぁ」  目が冷ややかになった。  練習していたメオは私に気がつくと、みるみるうちに顔を赤くした。だけど、私の心と表情は冷たいままだったよね。  暫く黙って座って。  お互いの下半身事情が落ち着いた頃に、ちょっとだけギクシャクした雰囲気のままで一緒に帰った。
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