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メオの目がやばい。いつもの、アホ全開ほやややーんな感じがない。どこへいっちゃったの? ハッ!? もしかして、そこのベンチの下あたりに落ちてる!?
「こう、さ……。至近距離で顎をなぞられたりする時とかさぁ……」
しっかりして、私ぃぃーーー!!
い、いやっ、違うっ。違うわ! しっかりするのは私じゃなくてっ……!
「いっ、いつのまにそんなことになってたのよ!! それいつよ!!」
唾を飛ばし、詰るようにして、私は叫んでいた。
…………。
そうじゃないでしょがーー!! 私ぃぃぃぃ!!!
詳細訊いてどうするのよ! ホモと聞けば目の色変えるシェンナじゃあるまいしっっ!
おバカな自己ツッコミをしている場合じゃない。急にホモ道を歩き出したメオを、なんとかしなくちゃ……!
「メオッ……!!」
とにかく、名前を呼んだ。
「ねえ、メオっ!!」
メオの目が私に向かないことが怖くって、彼の顔を両手で掴んだ。
「正直、男にドキッとさせられたことは、あるよ」
急速に指先が冷えていく。
頭からも、顔からも、サーッと血の気が引いていくのが分かるの。
そして、目の奥の部分から、絶望感が滲んで、くる。
「でも」
そのときになって、やっとメオの視線は戻ってきた。すこし伏せた睫毛が上がって、ぼんやりと私を見て、それから。
くしゃっと、笑ったわ。
「ミレイユ以上にドキドキする人なんて、いないんだあ」
もう、メオはいつものヘラヘラ顔に戻っていた。
私は、ちょっと……。
「……あ、え……?」
状況が飲み込めなくて、思考が意味もなくうずまき模様を描いたりして……。
「……あんた、まさか。今の、わざと?」
「え?」
「演技!? 演技したでしょ!! ありえないっ! 人が本気で苦しんでるっていうのに、シャレになんないわよッ!」
「いてっ! 尻を蹴らないでっ! 『ないものねだりしたって仕方がないけど、おれもあやかりたかったよ』って話をしただけなのにっ」
「まっっぎらわしいのよ!!!!」
「なんで!?」
もう一回だけ蹴りをかましてから、お先にスタスタと歩かせてもらった。ほっぺが怒りで勝手に膨れた。
ホント紛らわしい。一瞬、世界が終わったかと思った。大袈裟じゃなく、生きた心地がしなかったじゃないのよ。
「なあっ、ミレイユ」
「なによ!!」
くわっと八つ当たりの牙を剥いて振り返る。すると、メオが思っていたよりも近くにいて、たじろいでしまったわ。
「おれはミレイユのことが好きだよ。大好きだよ。これからも、ずっと大好きだ。信じて」
純粋にまっすぐに言葉が飛んでくる。
「おれを信じて」
それは子供の頃を思い出すくらいに無垢で、純粋。
「別に、疑ってるってわけじゃないの。でも、ただ……」
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