32 鼻ピアスから覗く未来

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 メオの目がやばい。いつもの、アホ全開ほやややーんな感じがない。どこへいっちゃったの? ハッ!? もしかして、そこのベンチの下あたりに落ちてる!? 「こう、さ……。至近距離で顎をなぞられたりする時とかさぁ……」  しっかりして、私ぃぃーーー!!  い、いやっ、違うっ。違うわ! しっかりするのは私じゃなくてっ……! 「いっ、いつのまにそんなことになってたのよ!! それいつよ!!」  唾を飛ばし、詰るようにして、私は叫んでいた。  …………。  そうじゃないでしょがーー!! 私ぃぃぃぃ!!!  詳細訊いてどうするのよ! ホモと聞けば目の色変えるシェンナじゃあるまいしっっ!  おバカな自己ツッコミをしている場合じゃない。急にホモ道を歩き出したメオを、なんとかしなくちゃ……! 「メオッ……!!」  とにかく、名前を呼んだ。 「ねえ、メオっ!!」  メオの目が私に向かないことが怖くって、彼の顔を両手で掴んだ。 「正直、男にドキッとさせられたことは、あるよ」  急速に指先が冷えていく。  頭からも、顔からも、サーッと血の気が引いていくのが分かるの。  そして、目の奥の部分から、絶望感が滲んで、くる。 「でも」  そのときになって、やっとメオの視線は戻ってきた。すこし伏せた睫毛が上がって、ぼんやりと私を見て、それから。  くしゃっと、笑ったわ。 「ミレイユ以上にドキドキする人なんて、いないんだあ」  もう、メオはいつものヘラヘラ顔に戻っていた。  私は、ちょっと……。 「……あ、え……?」  状況が飲み込めなくて、思考が意味もなくうずまき模様を描いたりして……。 「……あんた、まさか。今の、わざと?」 「え?」 「演技!? 演技したでしょ!! ありえないっ! 人が本気で苦しんでるっていうのに、シャレになんないわよッ!」 「いてっ! 尻を蹴らないでっ! 『ないものねだりしたって仕方がないけど、おれもあやかりたかったよ』って話をしただけなのにっ」 「まっっぎらわしいのよ!!!!」 「なんで!?」  もう一回だけ蹴りをかましてから、お先にスタスタと歩かせてもらった。ほっぺが怒りで勝手に膨れた。  ホント紛らわしい。一瞬、世界が終わったかと思った。大袈裟じゃなく、生きた心地がしなかったじゃないのよ。 「なあっ、ミレイユ」 「なによ!!」  くわっと八つ当たりの牙を剥いて振り返る。すると、メオが思っていたよりも近くにいて、たじろいでしまったわ。 「おれはミレイユのことが好きだよ。大好きだよ。これからも、ずっと大好きだ。信じて」  純粋にまっすぐに言葉が飛んでくる。 「おれを信じて」  それは子供の頃を思い出すくらいに無垢で、純粋。 「別に、疑ってるってわけじゃないの。でも、ただ……」
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