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返す言葉はしどろもどろになって、ちょっと前の勢いは一瞬で削げてしまっていたわ。
信じていないわけじゃ、ない。
そう、その、ね。今までが、アレだったから。
呪いがね、怖くて。
頭のなかでさえうまく纏まらなかったコソ泥みたいな文端。それをどう繋ぎ合わせても言い訳のようなものしか出来上がらない気がして、口を噤んでしまった。
「信じて」
メオはもう一度そう言った。
そして、その口で。私の唇を、掠めとるようして奪っていったの。
きゅ、急によ。信じられる!?
「ちょっ……! ここ、往来っ!」
慌てて辺りを見回したよね。
まったく、な、何を考えているんだか!
人気がまばらで、近くには誰もいなかったからいいものの。それでも無性に恥ずかしくなってしまって、街路樹の陰に逃げ込んだわよ。
え、ええい! うるさい! そうよ、恥ずかしいのよ! ふ、普通でしょ! 人目があるところでキスするのを恥じて、なにが悪いっていうのよ!
モラルがなってない幼馴染を叱り飛ばしてやるべく、口を開く。それと同時くらいに、私の顔横をメオの腕が通っていって。
「信じてくれるまで、キスするよ」
街路樹の幹に手を付き、私の逃げ場をなくすようにして、メオは囁いたの。
「あ、おっ……!? ぶ、ぶぉ……!?」」
別に格好をつけてる声ではなかった。さっきと同じで、言葉はどこまでも純粋だった。まっすぐだった。
けれど、子供の頃とは変わってしまった声が。大人になったメオの声が、私に奇声をあげさせる。いや、そもそも大体ね、近いのよ。
近い! 近いから!
「い、いや、だからっ、信じてないワケじゃ……! むむぅっ!?」
有無を言わさず合わせられた唇は、みっつも数えるほどなく離れていった。
「ちょっと! 誰かに見られたらどうすん……っ」
「見えないよ。木の陰だもん」
「んんん……!!」
代わりに、私が何かを言おうとする度にキスをされてしまう。
「わ、私はただっ……! メオが、他の人をすきに……っ」
「ならないよ」
「むぅっ! ……っは、だから、ホモになる、呪いが……っ」
「ならない」
「あ、むんっ……! ん、ん……! んうぅぅ……っ!?」
だんだん、だんだん、長くなっていく。深くなっていく。
唇が割られて、メオの舌が出入りして。私の口内がすこしずつ侵されて、占領されていくような感覚に陥ってしまいそうだった。
「ミレイユを狙ってくる奴らなんかに負けないよ。いーっぱい、小麦粉を売りつけてやるんだからな」
「ね、らいは、あんたよ……っ」
バカ。
最後の罵りは言わせてもらえなかった。
「う……」
『信じてくれるまでキスするよ』
『信じて』
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