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言葉を裏切らず、メオの舌は、唇は、卑怯なくらいに優しい。いっそ繊細なくらいの動きと柔らかさで私を拘束してしまうの。
胸と、身体の底が、じわんとする。
頭がしびれて、縋りつきたくなってくる。
こんなの、突き飛ばすこともできないじゃない。
ずるいわ。
「はぁっ……!」
唇が離れて、大仰な息が飛びだす。
メオの瞳がじっとこちらを見つめていて、私も肩で息をしながら見つめ返した。
メオのやつが私とちがって平然としてるのが、ちょっとだけ、悔しい。
背中に感じる硬い幹。
私に口付ける度に曲がる腕の動き。
何も口答えしていないのに、ゆっくりと近付きだしたメオの顔をみとめたあたりで、私のまぶたはそっと閉じ──。
「YOYO! ヘイヘイYO! おフタリさんYO! お熱いねェッ!」
なんか、湧いた。
「青春? HEY! 性シュン? YO! オレらマダマダイケるぜベイべー? オトナになっても燃え上がFIRE?」
街路樹のもと。至近距離で見つめあってた私たちに負けないくらいの超至近距離にあらわれた謎の男。
急に歌い出した暑苦しめの謎の男。
うん。
誰?
日焼けしすぎだし、手の動きがうるさいし、聞いたことないハチャメチャ音楽が耳に慣れない。
ついでに言わせてもらうなら、微妙にとんでくる唾が死ぬほど不快なんですけど。
「YO〜〜? よく見りゃ兄チャン、カワイイチャンあん。オレともイッチョ、チュッチュをチェケラァ?」
イェア?
謎男の謎掛け声と共に、私のなかのイェアは目覚めた。
YOYO。
やめてYO。
ふざけんじゃないわYO。私の目の前でメオにコナかけるなんていい度胸してるじゃないのYO。
メオをホモにしてたまるもんですか。
大体そもそも、邪魔すんじゃないわYO。
「私の彼に手ぇ出したら鼻にぶら下がってるこの輪っかを引きちぎるわYO」
極至近距離にある色黒いお顔。そこについた金ピカの輪っかに指をかけて、精一杯のドスを効かせた。
は? 『オ、オネエチャン怖いYO』ですって?
…………。
………………。
「いってよし」
これがオバサン呼ばわりだったら、生かしては帰せないところだった。
べ、別にオネエチャン呼びに喜んだわけじゃない。お姉さんよりオネエチャンのほうが若く思えて、嬉しかったわけでは決してない。
ないってば。ないって言ってるじゃないの。
「ふんっ」
鼻を鳴らした。
やっぱり、人がいるところでキスなんてするものじゃないわ。言わんこっちゃない。
メオにそれを告げようとして、逃げていくヘイヘイYOYOから視線を戻した。するとそこには、ぱんっぱんに膨れた丸ほっぺが。
「……なに怒ってんの?」
「怒ってない」
「じゃあ何。焼いて膨らむパンの真似?」
試しに右側の頬を指で突いてみた。そうすると右がしぼんで、左側がさらに膨らむ。反対を押せば、左側がしぼんで右側が膨らむ。
ちょっと地味に楽しい。本当に地味〜にだけど。
「メオをホモにしようとする奴を撃退しただけでしょ」
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