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33 痴漢に捧ぐケツ賛歌
「まいどですっ」
私は横目でメオを見た。じーっと見た。
いつも通りのへらへら顔には緊張感のかけらもない。いまいちしまらない猫背。ちょっぴりよれた服に、跳ねる寝癖。
こんなに隙だらけの人間もそういないんじゃないかと、思わざるを得ないというものよね。
「……メオ、そんなので大丈夫なの?」
「うぇ? なにが?」
頭痛がしてくる。どう考えても大丈夫じゃない反応が返ってきちゃった。
ジト目の横目で見つめたメオは阿呆面のまま。無害な動物を彷彿とする口元をして首を傾げているさまには──そうね、ウサギとかその辺りかしら。無害を通り越して、肉食動物にガブッと食べられそうな感じ──心配しかない。
ダメだわ……これ。これはいけないやつだわ。
私はとりあえず、一歩を下がった。広くはない店内で、ナッツ入りのクッキーかチョコチップ入りのクッキーにするかを随分と悩んでいたお客がホクホクの表情で会計をするさまを見届けた。ドアに取り付けられたベルがチリリーンと見送りの挨拶をしたなら、作戦決行よ。
まずは後ろから抱擁するでしょ。荒めの鼻息むふうむふうと演出しつつ、あちらこちらをサワサワとまさぐるの。
「!!」
「メオくぅ〜ん。チミィ、いいお尻してるねぇ」
それから、オジサンっぽい声を意識しつつ、お尻を揉みしだく。
あら? メオのお尻って意外とかたいのね。それが逆に悪くない……って、ちょっとやだっ。私ったら、本物の変態オジサンみたいじゃない。
や、それでいいのだわ。リアリティが出るってものよね。うんうん。
メオくぅ〜ん。お尻サワサワよ〜。メオくぅ〜ん。
「えっ、ちょっ!? ミ、ミレイユ……! お、いっ……!」
太もも部分のズボン布を通って、メオのメオクンなところをサワサワすると、裏返った声があがったわ。
ハァ、まったく。溜息が出ちゃう。
──ばっっっか!! メオのばっっか!! そんなんじゃ、いとも簡単に食べられてアァーッ! ってなって、ホモにされておしまいよ!? ちゃんと振り解かないとだめじゃない! 襲われたときに、こんなんでいいと思ってんの!? そんなんで貞操を守れるとでも!?
心を鬼にして、強めに股間のメオクンを揉んでやった。
メオは変な声を出してた。
カウンターに腕をついて震えている場合じゃないわよ。食べられちゃうわよ! ホモ的な意味で!
「『メオくぅ〜ん、おじちゃんとイーイコトしちゃおうね〜。むふーむふー』って来たらどうすんのっ。『メオくんのオツパイはどんなかなぁ〜。むっふー』って、鼻息かけられちゃうのよっ」
自分で演じたセリフながら、うっ、ぶるぶるっ! 鳥肌が立っちゃった。
腐女子シェンナに毒された思考をありがたく思えばいいのか、悲しく思えばいいのか、正直言って、もっとライトな痴漢像が浮かぶ話をしてほしかったというか。
大体、シェンナの語るホモって、キケンなものが多いのよね。青春! 初恋! 純愛! 的なピュアラブホモはそっちのけで、ちょーっと犯罪臭のする──時々、ちょっとどころじゃないのもある──ホモ話が好きというか。シェン、倫理観大丈夫かな。大丈夫だと信じてる。お願いだから大丈夫であって。ああ、女神さま。親友がホモを愛するあまり、道を外したりしないようにお護りください。
きっと今もホモを探しているに違いないシェンナへの祈りと共に、サワサワする私。その手ががしりと捕まえられたことをきっかけに、脳内シェンナと女神さまにバイバイをした。
本当にねー、手がかかるわよねー。うちの幼馴染。あっ、脳内シェン! ちゃんとまっすぐお家に帰るのよっ。道行くホモについていったらだめだからね。脳内女神さま、あとはよろしく。私は現実に戻るわ。
やっと抵抗したわねメオへと『よしよし。そのままちゃんと撃退するのよ』と、美人教官の気分で微笑んだのは、束の間だった。
背をおこしたメオが、あっという間に私を抑えこんだの。そして、背後にまわって。
「……誘ったの、ミレイユだからな」
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