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どうしよう、言わなきゃ。
言うのは怖い。言葉に出すと、余計にその画像を現実のものとして形作ってしまいそうだからだ。だから昨日、自分のことを調べようと決心した時も、このことは言いたくないという方針で自分の中で決定していた。
でも、やっぱり言わなきゃ……。大事なことを隠しているのは、きっとよくない……。
言うのが怖い反面、瞬たちになら言っても……という予感も実はどこかあった。僕が思っている「自分は犯罪者なのかもしれない」という考えを、笑い飛ばして、否定してくれる。今までの雰囲気からして、そんな気もしていた。
「あ、あのさ……」
しかし、その時タイミング悪くチャイムが鳴った。僕の掠れ声はいとも簡単に掻き消される。時計を見ると午後一時十五分になったところだった。「……予鈴……」と僕はポツリと言った。授業は二十分から始まるので、五分前には予鈴のチャイムが鳴るのだ。
「うそ、もう時間?」
鐘の音に藍花は目を丸くした。出端を挫かれた僕は、言おうとしていた言葉を引っ込めてしまう。代わりに「早く教室に戻ろうか」とだけ言った。勇気が急速に萎んでいくのが分かった。
……まあ、いっか……。
僕たちは早歩きで教室に戻る。途中で「ねえ」と蝦宇さんが僕に声をかけてきた。
「えっ、何?」
不意打ちすぎてびっくりした。話しかけられるだけでドキドキしてしまう。さっき感じた心臓の鼓動とはまた別の鼓動だ。何だか情けない。一方の蝦宇さんは僕の表情など一切気にする素振りも見せず、ただ淡々と口を開く。
「梶世くんが思い出した女の子って、どんな子だったの?」
「どんな子って……」
僕は返事に戸惑った。夢に見えたのは少しの間だったし、特にしゃべったわけでもないので何と言えばいいのか分からない。
「同じ中学の子だったみたい」と僕はとりあえずそう答えた。
「ふうん」
蝦宇さんが言う。蝦宇さんの言う「ふうん」は、興味があるのかないのか、深く考えているのか考えていないのかよく分からなくて少し困る。僕の返事で満足したのだろうか。
「長髪の……ふわふわした髪の、切ない感じの女の子だったよ」
とりあえずそう付け加えたが、蝦宇さんはあまり反応しなかった。
僕は何とも言えない複雑な気分になりながら、教室に入った。
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