6 統治者

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「自爆の過程で周りの他の術を消去して、自分の名誉を守るため」  すると、ざわつく空気をよけていくかのようなすっと通った声が耳に入った。声がしたと思われる方を向くが、誰も名乗りを上げない。みんな、「誰?」と辺りを見渡している。  声的に樋高さん……と思ったけど、左手斜め前にいる本人は頬杖をついて素知らぬ顔をしている。他のクラスメイトは誰も気づいた様子はなさそうだ。 「お、すごいね。今、誰かが言ったよね? 正解だ」  伊杷川先生はにっこり微笑む。先生は誰が答えを言ったかは追及せず進めていくようだ。 「そう、統治者は自爆することで、ある一定範囲内にある全てを無に帰すことができるんだ。心理としては、人間に倒されるくらいなら自分から消えよう、みたいなことだよ」  へえー……、と生徒たちは声を上げた。僕は声を上げる代わりに頷く。確かに、世を統治する役割を受け持っている者としての高いプライドがありそうではある。  先生は時計も見ずに語り続ける。 「いくら統治者の術が強いと言っても、絶対のものではない。つまり統治の方法に反感を持った人々が集まって統治者を倒すということが起きてしまうってわけ。実際、三十年ほど前にもそれが起こったから、前代の統治者が消えてトワ様が誕生したわけだし」 「じゃあ今はトワ様の統治方法に反感を持っている人はいないんですか? 称賛されてるって話は前に聞いたんですけど」  生徒の中から声が聞こえた。同時に手も挙がる。誰かと思ったら瞬だった。やはり興味を持ったらとことん突き詰めたいタイプらしい。 「うーん、一部の可術地方の人は批判してるっていうのは聞いたことあるよ。ただ、その人たちは自分の失敗を全てトワ様のせいにしているだけみたいで、半ば理不尽な腹いせっていう話。圧倒的に多いのは称賛の声だね。詳しいことは分からないけど、可術地方の偉い人曰く『歴代で最も称賛されている統治者』らしいよ」  先生の言葉を聞き、相槌を打つように小さく頷く。トワ様ってそんなにすごいんだ、と思ったその時のことだった。  ギリギリッ、と歯軋りのような耳にざらつく音が不意に聞こえた。
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