第1章ー1 Side A

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「そんなこと気にしてたんだ。見た目の若さに驚いたけど、一度も嫌なんて思ったことないよ。それにどう見てもアキは歳よりもずっと若い。自分で気づいてないの?」 「・・・。」 「歳上かもしれないけど全然違和感ないし、俺の方がしっかりしているし、正直かわいいっていつも思っているから。」 彼のそのストレート過ぎる言葉に自分を見失わないようにと、ワインを飲んだ。この淡々と続く2人のやり取りは激しくなどなくて、いつものような会話の中にあった。でも、やはりこの直球な言葉に私はただただ恥ずかしくて、心の中は穏やかではなく、ステディーでもない状態だった。 「そろそろ行こうか?泊まれるよね?」 「今日もトオリくんを独り占めしていいん?」 私が頑張って吐き出したやや直球的な言葉に彼はすごく嬉しそうで、少年のような笑顔になっている。 「いいよ!カケルに帰るって言ってくるから、ちょっと待ってて。」 と言って、彼はVIPルームに向かった。「本当に私たちはこれでいいのかなぁ」と思いながらも、間違っているのは分かっていながらも、真っ直ぐな彼の気持ちが嬉しくて、眩しくて、私は自分を止められなくなっている。私は離れようとする行動をしてみたり、嬉しさでいっぱいの行動をしてみたりと自分がどうしたらいいのか分からなくなっていて、自分を完全に見失っている。  お店を出ると、ふたりはアスファルトで温められた熱風に一瞬で襲われ、身体中から汗が吹き出してきて暑さを実感した。 「俺を独り占めしたかったんだ。」 と、嬉しそうにポツリと少し意地悪く言う彼を、私は愛おしく感じている。 「したいよ。」 私は恥ずかしさを隠しながら、口を尖らせて彼に言った。 「へぇー、したかったんだ。」 「・・・。」 「そうだったんだ。」 「もう、いいじゃん。」  マンションに着いてドアを開けて入ると、すぐに彼が抱きついてきた。 「待って。」 「待てないよ。店にいる時からずっと待っているんだから。」 と、彼が耳元で囁いた。 「・・・。」 夏の夜は暑くて長くて、眠ることなど忘れてしまっていた。私を包み込む伝わってくる彼の体温も、ぐっすり眠っているトオリくんの綺麗な横顔も離れにくくなると思ったから、始発で帰ることを決めていた。私はそばで眠っている年下すぎる彼に完全に落ちたらしい。本当は出会って話し疲れて眠った翌日の朝のバックハグの時から、いやもっと前の出会った時から私は自分の気持ちに気づいていた。年相応の行動と思考に基づいて、私は自分の気持ちに気づかない振りをして封じ込めていただけだった。久しぶりに感じた感情に対して恥ずかしくさえもあるけど、自分で抑え込むことはもう無理らしい。私は手早く帰る準備をして、 「またね。」 と、眠っている彼に言った。彼の寝顔をずっと見ていたいという感情を抱きながらも、私は空が明るくなるとすぐにマンションを後にした。そこには朝焼けがあって、今の私と同じ甚三紅(じんざもみ)の色をしていた。  京都駅が近くなった頃、ラインがきた。 “本当こういう朝はやっぱり離れがたくなるもんだね。俺、もう会いたくなってる” 彼の言葉は私の心を代弁してくれていた。同じ気持ちでいると知れただけで幸せな空気に包まれ、心が満たされていた。そして、 “私も” と、すぐに返信をした。
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