第1章ー1 Side A

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 翌朝は快晴だった。昨晩、片付けをせずに眠ったのは何年ぶりだろうか。うちのワンコもすっかり懐いてしまって、彼を独占されている。でもそれもいい。そして、彼もワンコとの触れ合いを楽しんでいるようで、癒されているようだった。  昼前に車で駅まで送ると、彼はホームまで送ってほしいと我儘を言った。人がまばらなホームで彼はハグをしてきて、驚いて固まる私の耳元で優しく言う。 「こういうの嫌?嫌いになった?」 「・・・。」 私は答えられずにいた。背の高い彼に包まれると魔法がかかり、固まって私は動けなくなる。 「ごめん、僕だけを思っててほしいんだ・・・。」 「うん。」 「また会える?」 彼にこう言われると、私はすごく嬉しい。 「会いたい・・・。」 「また連絡するから。」 改めて、思いの外、彼の束縛力は強かった。発車のベルが鳴り、彼は私から離れて新幹線に乗る。ドアは2人を遮り出発した。新幹線がいなくなったホームに残された私は胸がいっぱいになり、ずっと上りの行く手をみていた。そこから目を離して日常に戻る気持ちが湧かなかった。心だけでもいいからそばにいてほしい・・・と、知らずのうちに私の心が泣きながら叫んでいた。  そしてまた、私の日常が繰り返されていった。
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