第1章ー1 Side A

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 お店の人はホッとした顔をした。その瞬間私は「よかった」と思ったのだが、時間の経過と共に断るべきだったと後悔をしている。結局はいつも自分で即断できずに、雰囲気と人に流されている。そして、私は見た目が大人しく見えるからなのか、人から好印象を持たれて、よく話しかけられ、良くしてもらえることが多いのだが、恐らくそれは自分というものがないことが根源だと何となく知っている。更に自分は人たらしなのかもしれないと思うこともあるが、それは自分を殺して生きてきた証だと理解している。本当の私はどこにいても孤独で、皆んなとワイワイしながらも一歩引いてしまっていて、自分で決めたりなどしないずるい人間である。周囲の人にはあまりあまりこのずるさが理解されていないようで、私が故意に隠している感じがして、さらにずるい感じがしている。  そして、程なくして背の高いモデルさんのような女性がこちらに足早にやって来た。   「すみません、今日はありがとうございます。幹事のアリサです。突然、友達が来れなくなったので助かります。とりあえず私としては人数を合わせたいので、お願いできればと思います。途中退室で構いません。お金は来れなくなった友達が支払い済みなので大丈夫ですので、行きましょうか?」 すごく喋り慣れている印象を受けた。所謂、“出来る女性”であって、自分を情けない生き物のように感じた。 「あの・・・アキといいます。よろしくお願いします。ごめんなさい、お金は払わしていただけませんか?逆に参加しにくいので。」 「それは構いませんがいいんですか?わかりました。では、行きましょう。」 これだけ話すと、他の女子と共に奥にある常連さんもあまり知らないというvIPルームに連れて行かれた。男女6人6人の飲み会らしいが、この人数では広く感じられる部屋だった。 「おっ、久しぶり!」 「元気?」 「どうしてた?」 「太った?ヤバくない?」 などと、男子6人で再会を喜び合っているのが目に入ってきた。一方、部屋に一緒に入った女子6人の関係は微妙だった。。幹事のアリサさんが一番歳上のようで仕切っていて、仲がいい感じでも悪い感じでもないように見える。私はこの微妙な雰囲気に馴染めそうにもなく、とりあえず女子の中にいたものの、始まる様子もなく自己紹介もない様子で、雑談が続いていくことが予想された。私はもうこの時点で、参加したことを120%後悔していた。  男子の一人がアリサさんのところにやって来て話し始めたので、私は少し離れて席に座った。 「カオちゃん、まだ来てないみたいだけど。」 「今日、来れないって、さっき連絡あったよ。」 「仕事?」 「そんなわけないじゃん。プライベートでしょ。」 「・・・そーなんだ。」 「狙ってた?」 「いや・・・彼氏いたんだ。」 「えっ、知らなかったんだ。かわいいんだから普通いるでしょ。でも言わなかったカオも罪作りだけどねー。」 そんな会話が聞こえてきて、この時私は初めてカオちゃんという子の代役だと知った。そして同時に、合コンなどではなくほぼ友達同士の飲み会に入れられたことを知って、気持ちがさらに落ちた。正直ここには最初から自分の居場所などなくて、今や私は孤独感に押しつぶされそうになっている。疎外感に息苦しくなって深呼吸をした。「とにかく時間が過ぎればいいのだから」と自分を諭す。こういう時に自分ではどうすることもできない性格の私は、いつも自分が我慢する方を迷わず選択する。そしてその選択によって、自分という情けない生き物をまた追い込んでいく。 「はじめてだよね?はじめまして、トオリです。アリサさんの友達?」 さっきアリサさんと話していた男子だった。 「いえ。さっきカウンターで、一人足りないからって声かけられちゃって・・・。」 「人数合わせで連れて来られちゃったんだ。マジで?」 うなづきながら私は作り笑顔で訊く。 「この会って皆知り合いなんですね?」 「そうだけど、何で?」 「いや、合コンの人数合わせかと思っていたので、場違いで。」 「まさか知らなくて参加させられちゃったんだ。それキツイよね。ごめん、名前聞いていい?」 「アキ・・・です。」 「アキさん?いや、アキちゃん・・・でいい?もう呼んでるけど。アキちゃん、居心地悪いでしょ?」 「いえ。」 「嘘!」 と笑顔で語気を強める彼は、初めて会った私とずっと前からの知り合いだったかのように笑った。不思議なこの空間に私は突然放り込まれ、何故か心地いいと感じている。歳は私よりもずっと若くて、30歳くらいに見える小綺麗な感じの彼は、 「皆少しは気を使えって感じだよね・・・いいヤツばかりなんだけどね。」 と優しい笑顔で言う。                 
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