第1章ー1 Side A

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「いや、大丈夫です。気を使ってくれてありがと。えっと、トオリくん・・・の優しさに感謝です。」 と、私は名前を呼ぶことへの恥ずかしさもあって照れながら笑顔で応対する。彼の気遣いとこの心地よさと共に、彼との流れるような自然な会話にいつしか溺れてしまった私は、ただただ時間が止まってくれればいいのにと思うばかりだった。 「トオリ、何やってんの?つーか、誰と話してんの?」 と、飲み会の男子の1人が彼を呼んだ。 「トオリ、早くこっちで一緒に飲もうぜ。」 そう言った彼は女子に取り囲まれていて、人気のイケメンだ。明らかに参加女子は皆んな、彼目当てのようだ。他の男子は嫌ではないのだろうかと思うほどに女子の態度はあから様で、アリサさんも彼の横に位置して勝負を賭けているようだった。 「わかった、今行く。」 と声を大にして彼は答えて、 「一緒に行く?」 と私に聞いた。 「いえ。」 「そうだよね。ごめん、ちょっと行ってくる。また話そう。」 「うん。ありがと。」 と、笑顔を添えて一言だけ言った。社交辞令だと知っているから、それ以上、私は何も言えなかった。そして私はまた孤独感と疎外感に取り巻かれていった。  相変わらず女子は人気のカケルという子の争奪戦で、火花がバチバチとしている状態が続いている。残りの男子はワイワイ内輪で楽しそうだ。私は孤独感と疎外感の中で、完全なる閉鎖的人間ウォッチングタイムを楽しむことになっていた。そして、息子からの着信に気が付いて、私は席を立った。  急いで化粧室に向かい電話をかける。 「もしもし、ごめん、電話した?」 「いや、大丈夫かと思いまして・・・。」 相変わらずの息子の口調に腹立たしさではなく、今はちょっと心が和み笑えた。 「ご飯食べに出ていて、そこで友達になって今10人くらいでワイワイしてる。」 「分かりました。それは良かったです。もう50なので飲み過ぎないように。」 この息子のコメントには流石に吹き出しそうになった。 「そうだった。50だったね・・・分かりました。じゃあね。」 電話を切った。私達親子は側から見ると、「友達みたい」とよく言われる。  それはさておき、電話を切ってからもVIPルームに戻りたくない私は、カウンターの席に座って一休みをすることにした。すぐに先ほど声を掛けたお店の人がカウンターに座る私に気がついて、声をかけてきた。 「お客さん、ごめんね。急にお願いしたから。」  「いえ、大丈夫です。どうせ約束キャンセルだったし、一人だったし、楽しんでますから。」 「居辛いよね。変なお願いしちゃったね。ここでゆっくり休んでいいから。なんか飲む?」 「・・・お水ください。」 この場も自分も、お水を飲んでリセットしたい気分だった。 「帰ってこないから心配したよ。大丈夫?飲み過ぎちゃった?疲れたよね?」 トオリくんが話しかけてきて、私の左側に座った。 「いえ。」 「嘘!」 語気を強めたこの言葉に一瞬時が止まり、また二人で笑った。お店の人は状況を察して、お水を置くとすぐに、戻って行った。 「よくこのお店には来るの?」 「いや、初めてです。今日、友達と約束してたんだけど会えなくなっちゃって、行くとこがなくてなんとなく入った感じかな。」    「店の人と仲よさそうに話してたから、いつも来るのかなって思ったんだけど。」 「初めてです!」 私が語気を強めて言うと、彼は笑顔になった。 「アキちゃんて、なんか面白い。よくそう言われない?」 「言われないよ。もしかして思考回路が似てたりするんかも知れんね?分からんけど、そんな感じがする。」 「何それ?方言っぽい。」 「やっぱ出ちゃうね。東京人には成れんね。」 と言う私もいつしか笑顔になって、彼との会話を楽しんでいる。 「何これ?」 「リセットのお水。」 「ちょっと飲んでいい?」 「いいよ。」」 彼は一口飲んで、 「本当にお水じゃん。」 と言い、笑った。そして、彼の笑った顔はキラキラ輝いているように見えた。 「皆の方は大丈夫?」 「うん。もうすぐお開きみたいだったけど、一緒に戻る?」 「んー、私、すっと消えた方がいいのかなって思ってたんだけど、だめかな?」 「ここにいたらいいんじゃないかな。うまく言っておくよ。」 「じゃあ、お願いします。」 「了解!」 と彼は言い、私を残して席を立った。 「ありがと。」 と、私はまた一言だけ言った。  そして彼は戻り際に言う。 「あ、ごめん。アキちゃん、ケータイ持ってる?ちょっと貸して。連絡するのを忘れてて。」 「ん?急ぎ?いいよ。」
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