第1章ー1 Side A

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電話を取り出すと、「ごめん」と彼は言って少し離れて電話を掛けている。ここから電話をしている彼を見ると、背が高くて痩せていて、私が好きな「細長い」タイプだった。でも20歳の年の差は流石にないかと思い、年齢を重ねてしまった自分を苦笑いした。 「ケータイありがとう。急ぎだったから助かった。戻るね。」 そういうと、彼は仲間の待つVIPルームに戻っていく。 「うん。また。」 少し寂しいという感情とまだ話したいという気持ちが湧いていて、私は飲み過ぎたと感じた。  やはりすぐに会はお開きとなったようで、2次会へ行くようだ。 「トオリ、2次会行くぞ。」 そう言って、女子に囲まれて先導するカケルさんに、トオリくんは連れて行かれている。そしてアリサさんが一人カウンターに座る私に、ポンと肩を叩いて、 「お疲れ様。ありがとうございました。」 と、声を掛けてくれた。もう少しだけ社交辞令でいいから言葉が欲しかった、と私は思った。  その後、私はすぐにお店を後にした。ケータイの着信に気が付いて息子だと思ったが、見知らぬ番号が表示されていて、出ることを躊躇していた。見知らぬ番号からの3度目の着信で出ることにした。 「・・・もしもし。」 「もしもし、アキちゃん、今どこ?」 トオリくんの声だった。 「えっ、なんで?」 驚く私に、当たり前のように彼は言う。 「さっき、ケータイ借りたじゃん。」 「・・・。」 「で、今どこ?」 「んー、お店出て、大通りに出たとこで・・・。」 「いた!」 すぐにトオリくんが駆け寄って来た。 「2次会は?」 「辞めた。カケルがいればいいんだから。」 そして少し息が切れている彼に、 「どうしたん?」 「どうしたん?じゃなくて、飲み直すよ。」 「ん?」                  「『また話そう』って言ったじゃん。ごめん、もしかしてこの後、予定あったりした?」 「いや、ないけど・・・。」 「ほら、行くよ。」 彼は右手で私の左腕を掴み、私の了承など得ずに半ば強引に引っ張って、タクシーに乗り込み行き先を告げた。私は急な展開にまだついていけていない気がしている。いや、完全にトオリくんのペースで完全に流されている。でも私はこういうのが苦手じゃない自分を知っている。何度も経験はしているし、断り方も逃げ方も知っている。彼の横顔は窓の外の街の灯りに照らされて瞳だけが輝いて見えた。  そんな中、トオリくんのケータイの着信音が鳴った。 「もしもし。」 「わりい。俺、用事があったんだわ。」 「ごめん、急ぐから。また連絡するわ。」 早々に電話を切った彼だったが、状況は何となく理解できた。そして私に、 「よし、今日は飲むよ。」 と、テンション高めで彼は言う。 「2次会大丈夫?無理しなくても・・・。」  「無理なんかしてないから・・・俺がそうしたいだけだから。」 私の言葉を遮って言った強い彼の言葉に、ドキっとした。そしてその時、「ついて行っていいのかな」という思いが強くなった。タクシーは星のない夜空の下、都会の散りばめられた灯りの中を走っていく。断り方も逃げ方も知っているはずの私は「どうしよう」「いいのかな」「引き返すなら今」と繰り返すばかりで、自分を追い込むだけで何もできないないままでいる。  トオリくんのマンションに到着してしまった。今どうすべきかは知っているはずなのに、なぜか何もしない自分がいた。 「片付いてないけど入って。」 彼の言葉に、躊躇する私は曖昧に返事をする。 「・・・うん。」 「早く入って。飲み直すよ。」 と彼は言い、躊躇する私の手を引っ張り入れた。年上や同じ年の誘いは今まで普通に断れてきたのに、どうして断れないんだろう。彼の部屋は物が多かったが、シンプルで生活感がなかった。  ワインで乾杯した後の話に終わりなどなくて、ただただ楽しくて、とにかくたくさんのことを話した気がする。彼のトークは魅力的で、笑うと少年のようだった。そしてそんなにお酒の量は摂っていないはずなのに、私の記憶は途切れ途切れになって躊躇した自分を私は見失っていった。 「おはよう。」 「おは・・・えっ!」 すでにカーテン越しの外の日は高くて、天気がいいのも分かった。 「俺たち、話疲れて眠っちゃったみたい。」 と、彼は至って冷静に、そして少年のような笑顔で私に微笑みかけている。 「やばっ!今何時?帰れなくなっちゃう。」 「今日、山口まで帰る予定?」 「なんで知っとるん?」 「昨日、自分で言ってたじゃん。」 「信じられない!」  あまり覚えていない私は慌てて支度をしている。 「昨日の約束、覚えてる?」 「えっ?なんだっけ!」 「もう、アキちゃん!あんなに話盛り上がったのに、全然覚えてないじゃん。」 「・・・ごめん。」
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