第1章ー1 Side A

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「アキちゃんは平気で自分の気持ちにすぐ嘘をつくじゃん。大丈夫じゃないのに大丈夫とかって。でも俺は大抵その嘘を見抜くことが出来るし、見抜く自信がある。だから俺がその嘘を見抜けなかったら俺の負け!その代わり、人を信じることが出来るアキちゃんが、俺のことを信じきれなかったらアキちゃんの負け!という約束を昨日、交わしたんだけど。」 「負けたらどうなるの?」 「負けた方がお願いを一つ聞くこと。理解出来た?」 「わかった。」 と答える私は、新幹線の時間がとにかく気になっていた。夕方には到着して、時間までには預けている犬を迎えに行かなければならない。 「トオリくん、楽しかった。」 「うん。」 「ありがと。行くね。」 と言うや否や玄関に急いだ。でも突然のバックハグで時間が止まった。心臓の音だけがどんどん大きくなって響いていて、私はどうしたらいいかわからなくなった。そんな私に、彼が耳のそばで訊く。 「ラインとか連絡していいかな?」 ドキドキはさらに増して、甘える彼の声をも打ち消そうとしている。 「・・・いいよ。」 私は動けないままで答えた。耳が熱くなって、自分の顔が火照っているのを感じていた。 「よかった。断られたらどうしようかとずっと考えてた。」 その言葉を聞きながら、「ずっとこのまま抱いていてほしい」「でも歳下の子にこんなドキドキしていいのかな」なんて思っている自分が今、ここにいる。 「そろそろ行かなきゃ。」 「うん・・・。アキ、連絡する。だからアキも連絡して。」 私は彼から離れて、うなづいて手を振り部屋を後にした。  今、私は彼にアキと呼ばれた。私は嬉しくて嬉しくて・・・部屋を出てからも胸の高まりがまだ続いている。そういえば「アキ」と呼ばれたのは久しぶりだった。そして、二人のこの交わした約束はまた会うことを約束していた。私はホテルに急ぎ、荷物をまとめてチェックアウトして、東京駅に向かった。  あの日から毎日のようにラインで、彼から連絡がある。そしてそれは、私の代わり映えのしない日常の中で唯一の輝きで、「今何してる?」と聞かれるだけで、日常に色が添えられた。夜遅くに電話で話したりもした。でも声を聞くと、会いたさが増してしまって逆に苦しくなることも多々あった。私の心はまさに高校生であって、恥ずかしくもあるのだけど止められなくて、自分でどうしたらいいのかわからなくなっていた。
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