初めてのミッション〜ある主婦の身代わり1

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初めてのミッション〜ある主婦の身代わり1

シオタから渡されたUSBメモリーをバッグに忍ばせ、私は帰途に着いた。 7月に入っての最初の土曜日。ギラギラした太陽が照りつけていた。今年は例年より、かなり早く梅雨明けしたから これから過度な晴天が続くのだろう。 電車に乗ると、最初は涼しくて気持ち良かったが、クーラーがガンガンに効いているのか、寒いぐらいになってきた。私は夏生まれだが、この両極端な時期があまり好きではない。珍しく車内は空いており、座ることができた。向かいには制服姿の女子高生と母親だろうか……楽しそうに話している。私はふっと、高3の誕生日のことを思い出した。こんなふうに母とふたり電車に乗って、デパートに行ったことを。あの時は楽しかった。母の満面の笑みを思い出す。ふたりで出掛けたのは、あれが最初で最期(さいご)だったけれど。母は私の前では、いつも笑顔を絶やさなかった。あの頃、私は母の苦労などわかっていなかった。ずっと仕事と家事に追われて、気の休まる日などなかったんじゃないかと思う。それも今思えば、の話だ。あの頃、私が母の異変に気づいていれば……。後悔すると、母が悲しむだろうから、感謝するように心がけている。そんなことを思っているうちに居眠りしてしまい、気がついた時には向かいの席の母娘(おやこ)はおらず、見慣れたホームが目に映った。私は慌てて飛び降り、なんとか乗り過ごさずにすんだ。
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