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そんな思いが伝わったのか、翌日スナックにもマンションにも男は現れなかった。私が無下に断ったことで諦めたのかとすみれは思った。次の日もその次の日も男は来なかった。すみれの気持ちは複雑だった。男を好きな気持ちと昔の恋人を忘れてしまうという罪悪感。男に会いたい気持ちを抑えつけ、これで良かったのだと思うようした。
久しぶりに昔の恋人とよく行った喫茶店に行ってみる。何年か前に内装がリニューアルされて、様変わりしてはいたが それでも彼と笑い合った瞬間が戻って来そうな気がした。コーヒーを飲みながら、日頃の疲れもあってか居眠りをしてしまったようだ。目覚めると、窓から見える景色が変わっていた。いや、窓のカーテンが違う。おかしい、と思い 店内を見回すと リニューアル前のそれになっていた。
テーブルの上には飲みかけのミルクティー。ミルクティー?コーヒー派のすみれが、ここでミルクティーを頼んだのはあの日だけ。咄嗟に腕時計で時間を確認する。それも、今の高級ブランドではなく、千円の安物腕時計だ。時間はまさにあの事故の直前。タイムスリップ?!そんな摩訶不思議なことも問題ではなかった。今なら、あの事故をなかったことにできる!!私は店を飛び出した。彼を助けたい、ただ その一心で。
しかし、その切なる願いは無残に砕かれた。
キキーッ!!大きなブレーキ音!!
遅かった!あの日の繰り返しだ。私は二度も絶望感を抱くことになるのか……。せめて、今度こそ 恋人の最期だけでも見届けようと駆け寄った時、すみれがタイムスリップすることで時間軸が変化したのか、20年前の今日と状況が少し違っていた。
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