蜜月

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蜜月

今まで私の単身用マンションでこっそり結婚生活を送っていた私と由樹は… 二人だけでひっそりと行った秘密の結婚式を機に新居へと引っ越す事にした。 新居、とはいっても元々仕事用にいくつか点在していた由樹の寝る為だけの仮宿の一つを、二人で生活出来るよう契約し直して…私が元のマンションを引き払って引っ越した感じなのだけれど。 最初にこの部屋に住もう、と由樹に連れて来られた時は驚いた。 折角広々4LDKもあって日当たり良好、駅近で立地の良い高級マンションなのに、中はがらんどうといった表現がぴったりで。やたら大きいクイーンサイズぐらいのベッドだけが置いてあった。それも何故かダイニング部分に。 「何で?」って率直な感想を由樹に言ったら、起きてから洗面所に行くのが近いからってにこにこ顔で言っていて…改めて、妻の私が私生活をしっかりマネジメントしてあげないとって使命感に燃えてしまった。 そんな私の気持ちを知ってか知らずか「泉はここじゃイヤ?」って聞いて来るものだから、「私は太陽の光が当たる場所が気持ち良くて…好き」って最後の言葉をわざと強調して言う私も、大分あざとい女になったなぁ…なんて感傷に浸った。由樹は私の内心など推して知るべし…なはずもなく、素直に「じゃあこっちの部屋に運ぶね!」と作業中の引っ越し業者を捉まえて一緒になって重いベッドを移動させていた。 それから二時間。荷物の運搬を終えた業者はとっくに帰ってしまっていて、由樹と二人で私の部屋から持って来た荷物を解いていた。インテリアとか娯楽関係は段ボールに封をしたまま、食器とか衣類とか、すぐに出しとかないと生活に困る物を中心に物を出していって。それでもまだ、この広い新居には空間が有り余ってしまっていた。 もしこの先…一緒に暮らす人の数が増えたら。隙間が埋まって丁度良いのかもしれないけれど… そんな事を考えて、私は慌てて頭を振った。そういうのは、夫婦で計画を立てていくものだし。それに結婚した事すら公表していないイケメンモデルの由樹にこれ以上隠し事を増やさせるのは嫌だった。 「泉、今ちょっとエッチな事考えてたでしょ?」 吃驚して由樹を見ると、にやっとした表情でこっちを見ている由樹と視線が合った。右手にお菓子の箱みたいな物、左手には寸胴なペットボトル?みたいな物を持ってユラユラ振っている。あまり視力の良くない私は、目を細めて休憩したいのかな、なんて呑気に考えていた。 「ちゃんと必需品、段ボールから出したよ」 …違う、お菓子なんて、可愛いものじゃなかった… 右手にコンドームの箱、左手にローションボトルを持って笑ってる。 由樹はその二つをベッドへ放り投げると、私の手を引いてベッドの上へ押し倒した。もう、今から引っ越し蕎麦を作ろうと思ってたのに。 「泉…いい?」 覆い被さる由樹を拒否する理由に、蕎麦はあまりに貧弱な存在だった。
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