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「椎野、この前くれたクッキー、食ったよ。ありがとな」
昼休みに教室でぼーっとしてると、加賀谷くんが話しかけてきた。
「本当?良かった」
「店で売ってるものみたいだった」
「またまた~」
「ほんとだって」
加賀谷くんは話しやすい。どちらかというと武骨な感じがする人だけど、私はひそかに同志だと思っている。
「永遠のクッキーの話?」
一緒にお弁当を食べた後、後輩に部活の連絡をしに行って帰って来た真希ちゃんが話に加わる。
真希ちゃんには既に昨日、お礼を言われていて、美味しかったと感想ももらっている。
「あぁ、店に売ってるクッキーみたいだったからびっくりした」
「加賀谷、甘いものとか食べるんだね。漢たるもの甘いものは食わぬとか言ってそうなのに」
「いや・・・椎野がくれたのは甘ったるくなかったから食べれた」
「うんうん。うちのお母さんとお姉ちゃんもおいしいって言ってた。永遠、天才!」
「おおげさだよ~」
真希ちゃんのお家は、家族みんな仲良しだ。おっとりした天然なお母さんと、真希ちゃんにそっくりな活発なお姉ちゃん。
「ところでさー、今度三者面談あるよねー」
「あぁ、おおまかな進路を決めるやつだろ?」
「加賀谷はどこ行くの?」
「俺は・・・S高を受けて、特進科の願書を出す」
「え?野球は?推薦いっぱい来そうだけど」
「野球より大学行けって言われてるから」
「あぁー、加賀谷の家、建設会社だもんね。やっぱり跡取りなの?」
「・・・あぁ、まぁな」
少しだけ加賀谷くんの目に影が差す。私はその理由がなんとなく分かるような気がするから、話をそらした。
「真希ちゃんは?テニスが強いところに行くの?」
「んー?私はS高かなぁ?公立だしね。制服がないって憧れるよ」
「そっかぁ。いいなぁS高」
「永遠は?どこ受けるの?」
「私は・・・たぶん、N高になると思う」
「えー、高校は離れちゃうんだー・・S高、吹奏楽強いけど、まぁ、永遠のレベルならN高だよねー」
「・・・受けるだけなら・・ね?」
私は、あははと笑って気持ちをごまかしたけど、加賀谷くんと目があってしまった。でも、お互いに何も言わない。
加賀谷くんも私も、お互いが抱えている気持ちを少しだけ分かるというレベルで、わざわざ口に出したりしない。
加賀谷くんのお父さんが厳しいというのは、誰かが話しているのを聞いたことがある程度だし、建設会社の社長さんの息子というのは、地元では名が通った会社だから知っている人は知っている。
しかも、加賀谷くんの下の名前は、壮一くん。長男だ。加賀谷くんと同じ野球をしている弟が二人いる。
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