#2 永遠

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母親も弟もいないと思って、少々羽を伸ばしすぎたのか、母親が帰ってくる時間が迫ってきた。慌てて、冷めたクッキーをラッピングの袋に入れて、2階の自分の部屋に隠した。 そして、昼食で使った食器や自分用のマグカップを洗った。 残ったクッキーは、一応家族に残しておく。 台を拭きあげているときに母親が帰って来た。 「ただいま」 「・・・おかえり」 「これ、今日焼いたクッキー?」 「そうだね」 「大雅の分は?」 「それだけだけど」 「じゃあ、私はいいわ。全部、あの子に食べさせましょう」 「・・・」 「ケーキを買ってきたけど、あなた、食べる?」 「いらない。宿題しなきゃ」 「まだ、怒っているの?」 「何を?」 「S高じゃなくて、N高にしなさいって言ったことよ」 「・・・もう、分かっているから」 「S高の特進科に行くより、N高の方が大学進学には確実よ?お母さんね、あなたのために言ってるのよ?今だって10番以内に入っているでしょ?受験してみるだけしてみなさいよ」 「だから、わかったから」 「だったら、いつまでもふてくされているのはやめなさい」 「今から宿題するね」 「あ、すべり止めがS高だからって言って、N高の受験に手を抜いたら許さないからね」 「・・・そんなことしないから・・・」 母が少し声を低くして圧を強めた言い方に、ため息をつきたくなった私は、ため息ごと飲み込んだせいで弱弱しくなった言い方になってしまった。 「信用しているのよ?あなたのこと」 母は私の返答に気をよくしたのか明るく言った。 二階へ上がり、ドアを閉めて吐き出した。 「よかったですね、思い通りになって」 ベッドに寝転がって、暴れたくなる気持ちを認めると、息を長く吐いた。そして、短く大きく吸って、再び長く吐き出した。怒りを感じたら深呼吸が良いとどこかで知った。祖母が教えてくれたんだっけ? 幾度となく繰り返して、黒いものを飲み込む。 ベッドから起き上がり、宿題をしようと、カバンから教科書を取り出して、ふと思いつく。先ほど作ったクッキーを引き出しの中に入れたことを。 今のうちに3人へカードを書いておこう。 加賀谷くんと真希ちゃんには、リレーの練習に付き合ってもらったこと。そして、森山くんには、保健室に連れて行ってもらったこと。 母親の目を盗んで、学校で3人にクッキーを渡そうとしていることは、私の心を明るくさせた。
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