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「せんぱーい!!椎野せんぱーーーーい!!」
掃除の時間にゴミ捨てに行っていたら、裏庭を掃除していた、というか、サボっているようにしか見えなかったのだけど、羽田くんに会った。
体育委員で同じ仕事をした2年生の男の子で、元気いっぱいだ。先日クッキーをあげた森山くんも一緒にいて、羽田くんにはあげていない手前、なんとなく気まずい。でも、顔には絶対に出さない。
「先輩、ゴミ捨てですか??」
何かと絡んでくる羽田くんが裏庭掃除で使う竹ぼうきをその場に放って、私の方に走ってきた。
「うん。てか、羽田くん、ほうきは持ってた方がいいよ?先生が見回りに来た時怒られちゃうよ?」
「あっはー、そうっすね」
悩みがなさそうに見える羽田くん。羨ましく思うけど、実際のところは分からない。
後ろから森山くんもついてくる。彼はほうきは離さず、こちらに向かってきた。
「げ!!前橋発見!!」
羽田くんは慌てて、ほうきを取りに戻った。
私も、教室に戻ろうと、森山くんに、笑顔を浮かべて目であいさつして、去ろうとすると、
「先輩」
と呼び止められる。
「ん?どうかした?」
「・・・クッキー、うまかったっす・・・」
ぼそっと、小さな声でそんなことを言って、くるっと後ろを向いてしまった。
「いいえー」
羽田くんに気を使ったのだろうか。
私の自己満足のために、余計な気を使わせてしまったのかもしれない。
ごめんね、と心の中で謝って、その場を後にした。
教室に帰る足取りが軽いのは、森山くんがクッキーのような焼き菓子が大丈夫だったことと、美味しかったと言ってくれたからだ。
良かった。
自己満足でしたことだけど、単純にうれしい。
階段を上って、3年生の階に到着して、踊り場の角を曲がると、誰かとぶつかりそうになった。
「わっ・・ごめんなさ・・」
「うわっ・・・」
「あ・・・」
去年、同じクラスだった男子だ。整った顔立ちは品があって、素敵だなと思っていた。もちろん、恋愛的な意味じゃなくて。
「・・・わりぃ・・」
彼は、気まずそうに目をそらして、私を通り越して行ってしまった。私も、何事もなかったように教室に戻る。
廊下掃除をしていた真希ちゃんが、
「ね、平山とぶつかってた?」
と、ちょっとウキウキしながら言う。
もー、目ざといんだからー・・・。
「ぶつかってなはいんだけど・・・」
「今の彼女には悪いけどさ、平山と永遠、付き合ったら美男美女で有名になってただろうなー」
「真希ちゃん、しーっ!!女バレの子に聞かれたらまずいよ!!」
「永遠はモテるのに、誰とも付き合おうとしないんだよなー?もったいないー本当に、好きな人いないの?」
「・・・うちは親が厳しいから・・・」
「内緒にしちゃえばいいのに。私、協力するよ?」
「・・そんな風にできればいいんだけど・・・」
「永遠は真面目だね・・・たまに心配になるよ・・」
「真希ちゃん・・・」
ほろりとしてしまう。だから学校は大好きだ。私を阻害するものがなくて、温かいところだから。
「ね!!あのさあのさ」
と、真希ちゃんは私に耳打ちしようと肩を組んで、
「加賀谷も絶対、永遠のこと気になってるよね!?」
と言った。
「それはないって!!」
クスクス笑って噂話をしている時が一番楽しい。
「何々?どーしたの?」
他の女の子も寄ってくる。
掃除したての教室は午後の光がさんさんと入って、明るく楽しげだ。
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