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 向かいの店の壁に並ぶ自販機から、オオカミくんがスポーツドリンクを2本買ってきて、1本私にくれた。それからオオカミの頭部を脱ぐ。蒸れるだろうなと思ったけど、顔を出した彼は汗だくで、不快そうな表情を隠さなかった。 「大丈夫?」  赤いスカートのポケットからハンカチタオルを彼に差し出した。  熱中症とかなってないといいけど。  でも彼は首を横に振って、自分の首にかけているフェイスタオルで乱暴に汗を拭った。そのせいで、普段は額にさらりと斜めにかかる長めの前髪と濃くてキリッとした眉毛が両方共クシャクシャに乱れたけど、それでもかっこいい……と言うか、むしろ色っぽい。  やだ、私ってば!  ずっと見すぎたのか、彼が不意にこっちを見たので、とっさに下を向いた。  今日の仕事……彼には散々なのかもしれないけど、私はじつは内心嬉しかったりして。  私、松本里帆(まつもとりほ)とオオカミくんの中の人矢上翔(やがみしょう)くんは、宣伝しているケーキ屋さんパティスリー・エメ・ボーヴォワールで一緒に働いているバイト仲間だ。  パティスリー(長いので以下略)は、エメさんってフランス人がパティシエの洋菓子店なんだけど、オーナーは日本人の弦巻(つるまき)さん。2人がどんな関係か私はよく知らないけれど、ときどき弦巻さんが来店する際はかなり仲良しに見える。
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