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それでも給仕をしていれば出したものについて説明を求められることもあるわけで、そういう時俺が言い淀んでいると、ショーケースの内側から、彼女が代わりに説明してくれた。
後日、里帆の方からお店のケーキについての説明をメモしたものをもらった。わざわざ書いてくれたのと緊張しながら渡してきた様子になんだか感激した。
でもそのぐらいで、好きだと意識したわけでもない。挨拶してただけなのが、会えば少し話すようになったくらいだ。彼女の方も慣れたのか、最近はぎこちなさもなくなった。
だいたい、そんな感情具体的にいつからとか説明できるものじゃない。
だんだんとバイトのない日でも彼女のことを思い出したりするようになったくらいか。
それなのに彼女に対していきなりあんな夢を見るなんて。
夢の彼女がエロかったのをいいことに、すごいことをした気もする。
かなり恥ずかしかった。
週明け、まともに顔を合わせられる気がしない。
「ね? 矢上くん」
「え?」
だから有さんにいきなり声をかけられた時も、何の話を振ってきたのかさっぱりわかってなかった。
ただ、振り返った瞬間、有さんの隣にいた里帆と目が合って、下げようとしていたトレイを思わず落としそうになった。
三日も経てば普通夢の記憶なんておぼろげになるはずなのに、彼女の茶色く丸い瞳を見た途端、黒いエプロンの下の白くて柔らかい肌の感触さえ鮮明によみがってきて、唇が震えた。
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