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 いつもお客さんいないなと思ってた店内が、7月になってから行くとカフェコーナーに座るお客さんがいる。次の週も。  さてはクチコミでも広まってきたのかなと思ったら、そのわけがわかった。  矢上くんが雇われたからだ。  すらっと背が高くて、白いシャツに黒いギャルソンエプロンが似合う。整った顔立ちに目が奪われる。店内で飲食する女性客も同じ目的なのかと思いたくなるほど、2つしかないテーブル席は常に満席になった。 「すごいでしょ? お客さんが一気に増えたの」  常連客扱いなのか、最近気さくに話しかけてくれるようになった有さんがショーケースの向こうから小声で言った。 「よかったですね。ここのケーキ本当に美味しいから」 「じつは結構忙しくなってきたから、もう一人アルバイトを雇うってオーナーが言ってたんだけど……興味ある?」  なんだかんだ矢上くんを目で追っていた私に気づいたのかわからないけれど、有さんが教えてくれた有力情報に私は一も二もなく飛びついた。  弦巻さんは私との面接で2、3分雑談しただけで採用してくれた。その頃ちょうど高校が夏休みに入ったので、私は毎日忙しくなる夕方の3時間ほど働くことになった。
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