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「わぁ、二人とも似合う! じゃあ、よろしくね♪」とややオネエ口調の弦巻さんに車で送られて、渋谷の駅前で放り出された私たち。
「なんか……ごめんな。圭ちゃん(弦巻さんのこと)、強引だからさ。嫌なら嫌だって言えよ」
路肩に並んで腰を下ろしたとたん、矢上くんが言ったので、私は首を振った。
疲れるけど、全然嫌なんかじゃない。むしろ矢上くんと一緒の仕事、大歓迎。
「ううん、楽しいよ。この衣装もかわいいし」
アルプスの民族衣装みたいなエプロンドレスっていうの? ちょっと胸元が強調されるので恥ずかしいけど、頭から被った赤頭巾がカバーしてくれてる。
「そう。ならよかった」
「矢上くんのオオカミの着ぐるみも本格的だよね」
「圭ちゃんがテーマパークに勤めてる友達から借りてきたんだって。でも、やっぱ蒸れる。なんか臭いし」
「ほんと?」
「か、嗅がなくていいから!」
ふざけて着ぐるみに顔を近づけると、矢上くんが焦って手で遮った。オオカミの手は大きいけど、なんだかかわいい。
オオカミの頭部は大きく口が開いてて、牙も並んでいた。その口部分から外を見るようになっている。それでもたいして開いてないから、見辛そう。今はオオカミの頭だけそばの歩道に置いてあるので、何だかシュールな光景だった。
いつもより何だか距離が詰めてる気がした私は調子に乗って、オオカミの手を両手で取った。
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