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「先輩、今日体育ありましたね」
「そうそう、見えてた?」
「サラ先輩と仲良しでした」
「あー……、ね、そうね」
私の気持ちなんてとっくに先輩にはお見通し。
揺らめく波間のキラキラの欠片のような瞳で私を見つめて。
「ごめんね? 夏芽」
言葉とは裏腹な先輩の指は私の長い髪の毛を櫛を通すように撫で、そのまま私の首筋を這って。
辿り着いた先にあるセーラー服のネクタイをクルクルと弄ぶ。
グッと唇噛んで泣きだしたいのを堪えて先輩を見上げたら。
「夏芽の泣きそう顔、可愛くて好き」
先輩の声で名前を呼ばれるのが大嫌いで大好き。
その好きはサラ先輩のと同じ?
シュルリと私のネクタイを解く細く器用な指先に私の心はざわめいた。
優しくしないで、諦めきれなくなってしまうから。
期待してしまうから。
目を閉じて唇に触れた熱を受け入れながら、うっとりと漂う波間で。
いつか私は泡沫となる。
―――ただそばにいたい、それだけなのに。
【完】
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