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試着した日はメイクも髪型も普段と同じだったけれど、結婚式当日の今日は一味ちがう。髪は美容師さんの手でふんわりと結い上げられて、きらめくティアラが乗っている。
プロの手で施されたしっかりメイクは、わざとらしくないのにいつもよりも一.五倍は盛られている。
ご祝儀込みのリップサービスを差し引いても、今日は一生のうちで一番、綺麗なはずだ。この姿を一番見て欲しい人はもちろん……。
「ふみちゃん!」とウェディングプランナーさんに案内されて入ってきた私の新郎さんだ。
「似合う?」と聞くと、彼は無言でヘヴィメタルバンドのドラムスのように首を激しく上下に振ってくれた。やっぱり声は出ないみたい。
「ありがと……、あれ? 何を持っているの?」
「あ、これね。新婦さんは結婚式の日は、食事を摂る時間があまりないって聞いたから、サンドイッチ作ってきたんだ。一口サイズで小さく作ったから、口紅もとれないと思う。もし小腹が空いたら食べて」
なんて優しいんだろう!
「実は披露宴のご馳走をお腹いっぱい食べられるように、朝ごはんを抜いてきちゃったの。だけど花嫁は忙しいから、多分、ご馳走はほとんど食べられないってさっき言われて」と、言っているそばから、お腹がぐう、となる。
「そうだと思った」と優しく微笑む彼を見上げて、「ありがとう!」と言うと、彼はタキシードが汚れるのにも構わずに、膝を床について私の手を取った。
そして、指にキスを落としてくれた。それから手の甲に、最後に手のひらに。
「汚れちゃうよ」と言ったけれど、ドキドキして声がかすれてしまった。だって、王子様みたいに素敵だったから。
ウェディングプランナーの上田さんが「きゃあ! ステキ!」なんて、隣で歓声をあげていたような気がするけれど、心臓のドキドキのせいで、全然耳に入ってこなかった。
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