・傘とゼッケン・

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・傘とゼッケン・

「で? 誰なんだよ」 「あ?」 「美里に告られた時に言ってた好きなやつ、って」  佐久間の問いかけに、窓の外で他の先輩たちとしゃべってる悟先輩に目をやった。  こんな時でもいつもと変わらない、へらへらと気の抜けるような表情。 当たり前のように手に入れたゼッケンと見比べると、どっちが本当の幸せ者なのかわからなくなる。 「はぁ……」 「なんだよそれ」 「別に」  今にも雨が降り出しそうな空の色に、慌ててゼッケンをカバンに突っ込んで、肩に担いだ。 「おまえなぁ……、もっと丁寧に扱えよ」 「は?」 「ゼッケン。三年間一度も貰えなかった先輩だっているんだぞ」  佐久間は一応気遣うような言葉を言ったあと、窓の外の悟先輩を顎で指して、 「まぁあの身長と体格じゃ、しょうがないけどな~」 と、小馬鹿にしたように鼻で笑った。  たしかに悟先輩は、俺らよりチビでガリだ。坊主頭に眼鏡で見た目も冴えない。 3年生の中で一度もベンチ入りできなかったのも、悟先輩だけだった。 だから佐久間に限らず、陰で馬鹿にしてる奴らは多い。 「あぁ……、最後くらい、ゼッケンもらえるかと思ったのにな」 「えっ、マジで言ってる? どう見たって無理だろう」  佐久間はムリムリ~、とアホ面で首を振ってる。 その顔を見てたら、無性に腹が立った。 「なんも知らねぇくせに」 「は?」  3年生が引退して、秋の大会からすぐ、スタメン張れるようになって。 1年生ながらに抜擢されたことで、ベンチ入りできなかった何人かの先輩たちから嫌がらせされるようになった。  いじめってほど酷いもんじゃなかったけど、それでもそれなりに堪えた。 当然他の先輩たちもそのことに気づいてたけど、みんな見て見ぬふりだった。 そんな中で、悟先輩だけは変わらずに接してくれた。  スランプにもすぐ気づいて、いつも先輩のほうから声をかけてくれて。 そん時にくれるアドバイスもめちゃくちゃ的確で、何度も助けられた。  体格にさえ恵まれてたらきっと、俺も佐久間も敵わなかったはず。 そんくらい努力してる人だから…… だからきっと、千波先輩も好きになったんだろうな。 「……おまえみてーな適当な奴が、馬鹿にしてんじゃねぇよ」  別に庇う義理なんてないけど。 悟先輩を好きな千波先輩のことまで馬鹿にされたみたいでつい、強い口調で言ってた。  3年生にとっては、これが中学校での最後の大会だった。 だけど今回も、悟先輩がレギュラーを取れることはなかった。  もしも奇跡が起こって、せめて補欠にでもなってくれてたら…… そしたら遠慮なんてしないで、千波先輩にガチで告るつもりだったのにな。  せっかく県総体の切符つかんで、チャンスつくってやったのに。 ホントなにやってんだよ。
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