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・理想と本音・
校門を出て右に目をやると、横断歩道の手前に千波先輩の背中を見つけた。だけど。
校門の横でしゃべってた、女バスの翼と美里に捕まった。
「ちょうどよかった。明日ふたりで映画行こうって言ってたんだけど、丸も行かない? さっき佐久間も誘ったんだけど」
「あぁ……、別にいいけど」
「じゃあさ、じゃあさ、バス停集合でいい?」
「あぁ」
「時間は……、美里、何時頃にしよっか?」
「えっ、どうしようか? 丸くんは何時くらいがいい?」
二人がわいわい言ってる間に、先輩の姿は見えなくなってしまった。
走ればすぐに追いつけることくらいわかってるけど、落ち着かない。
「……悪い、俺もう行くわ。時間決まったら連絡くんない? 俺は何時でもいいから」
言うだけ言って、二人の返事を待たずに歩き出した。
横断歩道を渡って大股でずんずん歩いていると、そう遠くない所に先輩の姿を見つけた。
笹尾先輩と一緒だと思ってたけど、今日はひとりだったらしい。
いつも楽しそうに跳ねるように歩いてるのに、肩を落としてのろのろと歩いてる。
もしかしてさっき、悟先輩になんか嫌なこと言われた?
聞きたいけど、聞けるはずもなく……
「お疲れ」
いつものように、背中に声をかけた。
すると先輩は、しゅっと背筋を伸ばして足を止めた。
「速っ。もう追いついたの?!」
振り返った先輩は、いつも通りの表情筋使いまくりの笑顔を向けた。
でもそれが余計に、痛々しく見えた。
「まぁ。1年の時から、レギュラーなんで」
わざと上から目線で答えると、先輩は顔を前に戻して歩き出した。
「そうだよね……、補欠にすらなったことない悟とは、違うもんね」
なんの脈略もなくまた、悟先輩の名前が出てきた。
今悟先輩関係なくね?と、胸がもやもやしてきた。
「……先輩ってさ、悟先輩のことが好きなの?」
先輩の前に回り込んで、思い切ってストレートに聞いてみた。
先輩はえっ、と驚いた顔で足を止めると、一瞬目を泳がせてから、ないないと首を振った。
「悟なんて全然タイプじゃないもん」
先輩は慌てて否定すると、俺の横をすり抜けるようにして歩き出した。
「そう? いっつも悟先輩のことばっか話すから、そうなのかなって思ったんだけど」
「気のせいだよ。でもさ、センパイとは学年も部活も違うから、お互い知ってるのって、悟とりっちゃんと昇だけでしょ? だから名前が出るだけだよ。普通じゃない?」
たしかにそれもあるだろうけどさ。耳まで真っ赤にして、不自然な笑顔つくって、早口になって。
必死すぎるよ。
それって好きって言ってんのと変わんねぇじゃん。
「て言うか、うちの中学にはいい人いなかったからな~。高校行ったら、かっこいい彼氏つくるよ」
そう言って、先輩はガッツポーズをして見せた。
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