13人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇねぇ、あの子センパイの彼女?」
後ろからリュックを引っ張られて振り返ると、千波先輩と笹尾先輩がニヤニヤ笑いながら立ってた。
「さっき昇降口の所で女バスの子としゃべってたでしょ? 土曜日あの子とセンパイがバスから降りてくるとこ、りっちゃんが見たんだって~」
「そっ。コンビニの窓からセンパイ見えたから、声かけようとしたんだけどね。女の子と一緒だったから、遠慮しといたよっ」
「あぁ、あれっすか。違いますよ。ホントはあと二人いたんだけど、途中でバス降りただけっす」
ホントは佐久間は来なかったし、翼も映画が終わった途端に急用とか言ってさっさと帰った。
最初から俺と美里を二人にするつもりだったと、あとから聞いた。
「え~、違うのぉ? お似合いだと思ったのにな~っ」
「そうっすか? 告られたけど、断っちゃいました」
「えっ、なんで?! 可愛い子なのにぃ」
「ホントホント。背も高くて色白で、性格だってよさそうじゃん。もったいないよぉ」
たしかにいいやつだし、可愛いほうだとも思うけど……
俺に彼女ができたらきっと、千波先輩も笹尾先輩みたく声をかけんの遠慮すんだろ?
そんな風になるくらいなら、彼女とか欲しいと思わねぇ。
「あんな子振っちゃうなんて、センパイって理想が高いんでしょ~」
「理想?」
笹尾先輩に聞かれて、さり気なく千波先輩に目線を落とした。
くねくねと癖の強いショートヘアには、今日ももれなく寝癖がついてる。
小学生の下校時間と重なると、どっちが小学生かわかんねぇくらいチビだし、日焼けもどんどん濃くなってるし……
そんなことを考えてたら、俺の視線に気づいた先輩が、どうなのどうなの?と肘で突いてきた。
目をきらきらさせて、楽しそうに笑ってる表情に、思わずつられて笑ってる自分がいる。
「……高いっすね」
「えー、あの子でも駄目なんて、相当高くない?!」
「だよね? ちょっとぉ、じゃあどんな子がタイプなわけ?!」
「えっ……」
いつも笑ってて、一緒にいると楽しいし元気になれる。
つき合うなら、千波先輩みたいな人がいい。なんて……
言えるわけないじゃん。
「じゃあ、またね」
小学校の前を通り過ぎた角の所で、笹尾先輩は右に曲がってった。
この間はちょうどこの辺りで降り出したんだけどな。
空を見上げてみたけど、生憎雨が降る気配はなかった。
「あっ、センパイ、今日は傘持って来たんだねっ」
「帰りは雨になる、って予報だったんで」
まぁ、降水確率30パーセントだったけど。
「そうだっけ?」
「先輩は相変わらず、持って来てないんだね」
「だってほら、やっぱり無駄になってるじゃん」
「まぁそうなんだけどさ……」
せっかくデカい傘を買ったのに、なかなか思い通りに雨は降らない。
あれから毎日持ち歩いてんのに。
そもそも朝から降ってたり、今日みたいに午後降る予報が外れたり───
結局出番ないまま、梅雨明けちまうのかな……
最初のコメントを投稿しよう!