・理想と本音・

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「ねぇねぇ、あの子センパイの彼女?」  後ろからリュックを引っ張られて振り返ると、千波先輩と笹尾先輩がニヤニヤ笑いながら立ってた。 「さっき昇降口の所で女バスの子としゃべってたでしょ? 土曜日あの子とセンパイがバスから降りてくるとこ、りっちゃんが見たんだって~」 「そっ。コンビニの窓からセンパイ見えたから、声かけようとしたんだけどね。女の子と一緒だったから、遠慮しといたよっ」 「あぁ、あれっすか。違いますよ。ホントはあと二人いたんだけど、途中でバス降りただけっす」  ホントは佐久間は来なかったし、翼も映画が終わった途端に急用とか言ってさっさと帰った。 最初から俺と美里を二人にするつもりだったと、あとから聞いた。 「え~、違うのぉ? お似合いだと思ったのにな~っ」 「そうっすか? 告られたけど、断っちゃいました」 「えっ、なんで?! 可愛い子なのにぃ」 「ホントホント。背も高くて色白で、性格だってよさそうじゃん。もったいないよぉ」  たしかにいいやつだし、可愛いほうだとも思うけど……  俺に彼女ができたらきっと、千波先輩も笹尾先輩みたく声をかけんの遠慮すんだろ? そんな風になるくらいなら、彼女とか欲しいと思わねぇ。 「あんな子振っちゃうなんて、センパイって理想が高いんでしょ~」 「理想?」  笹尾先輩に聞かれて、さり気なく千波先輩に目線を落とした。  くねくねと癖の強いショートヘアには、今日ももれなく寝癖がついてる。 小学生の下校時間と重なると、どっちが小学生かわかんねぇくらいチビだし、日焼けもどんどん濃くなってるし……  そんなことを考えてたら、俺の視線に気づいた先輩が、どうなのどうなの?と肘で突いてきた。 目をきらきらさせて、楽しそうに笑ってる表情に、思わずつられて笑ってる自分がいる。 「……高いっすね」 「えー、あの子でも駄目なんて、相当高くない?!」 「だよね? ちょっとぉ、じゃあどんな子がタイプなわけ?!」 「えっ……」  いつも笑ってて、一緒にいると楽しいし元気になれる。 つき合うなら、千波先輩みたいな人がいい。なんて…… 言えるわけないじゃん。 「じゃあ、またね」  小学校の前を通り過ぎた角の所で、笹尾先輩は右に曲がってった。  この間はちょうどこの辺りで降り出したんだけどな。  空を見上げてみたけど、生憎雨が降る気配はなかった。 「あっ、センパイ、今日は傘持って来たんだねっ」 「帰りは雨になる、って予報だったんで」  まぁ、降水確率30パーセントだったけど。 「そうだっけ?」 「先輩は相変わらず、持って来てないんだね」 「だってほら、やっぱり無駄になってるじゃん」 「まぁそうなんだけどさ……」  せっかくデカい傘を買ったのに、なかなか思い通りに雨は降らない。 あれから毎日持ち歩いてんのに。 そもそも朝から降ってたり、今日みたいに午後降る予報が外れたり───  結局出番ないまま、梅雨明けちまうのかな……
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