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「……なんかすんません。冗談のつもりだったのに」
店を出てパンを受け取ると、いいって、と先輩はまた苦笑いした。
「じゃあ、気をつけて帰りなよ」
そう言うと先輩は、停めてある自転車のほうに歩き出した。だけど。
チビでガリガリなその後姿を見送ってたら、収まりかけてたはずのもやもやが、復活してきた。
待て、待て。
たしかに性格はいいけどさ、男としてはどうなのさ。
性格なら俺だって別に悪い訳じゃねぇし、体格だってバスケの上手さだって俺のが上じゃん。
やっぱ俺のがよくね?
そもそも悟先輩は、千波先輩には意地悪だったしさ。
千波先輩のことなんて、やっぱなんとも思ってねぇのかも。
勝手に思い込んで悟先輩に悪い気がしてたけど、もしかしたらそんな遠慮いらねぇんじゃね?
けど……
なんて聞きゃいいんだ?
そんなことを考えてる間に、先輩は自転車にまたがって帰ろうとしてた。
「あ、先輩!」
慌てて呼び止めると、先輩は足を止めて、ん?と振り返った。
「どうした?」
こっちの気も知らねぇで、相変わらず気の抜けるような表情。
勢いで呼び止めちまったけど、なんて言ったらいいんだ?
「いや、えっと……」
先輩って千波先輩のこと、好きなんすか?
なんて、さすがにストレートには聞けねぇし。
聞いたって、答えるわけもねぇし……
「……あ、あれっす。あの、この間の……」
「この間?」
「ほら、帰りがけに先輩に蹴り入れた……、千波先輩?」
なんて言って確かめたらいいのかなんて考えるまでもなく、名前を出しただけで先輩の顔は、耳まで真っ赤になった。
……なんだ。やっぱ両想いなんじゃん。
名前聞いただけで動揺するとか、どんだけだよ。
「えっ、あ、あいつがどうかした?」
先輩は何事もなかったみてぇにいつものへらへら顔を作ろうとしてるけど、もうなんかどうでもよくなった。
「いや、なんでもないっす。パン、ありがとです。お疲れさまっす」
「えっ、あぁ……」
キョトンとしてる先輩に頭を下げて、さっさとその場を離れた。
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