・諦めと決意・

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・諦めと決意・

「センパイ?」 「え?」 「最近よく、ボーっとしてるよね」 「そお?」 「そうだよ。そんなんじゃ、悟にレギュラー取られちゃうんじゃない?」 「まさか。悟先輩になら、目ぇ瞑ってても勝てるし」 「酷っ。さすがにそれは、言いすぎでしょう」 先輩は泣きそうな顔で笑った。  だって、わざとだもん。 悟、悟って、先輩がしつこいから。だからつい、意地悪な気持ちになる。  二人が両想いだってわかったから、もう先輩のことなんて考えんのやめようって思ったけど。 やっぱ気づくと目で追ってる。  先輩を見つけてクスッとして、でもその視線の先に悟先輩を見つけてイラっとして。 もうやめようって思うのに、そのくり返し。  でもあと十日もしたら、夏休みだし。 それまでどうにか乗り切れば、先輩も引退して帰り道で会うこともなくなって…… 二学期が始まる頃には、忘れられるはず。  もともとタイプなわけでもないんだし、簡単にできるはず! ……って、思ってたんだけどな。  今日も持って来ちまった傘を見て、苦笑いした。 「……総体のメンバー発表、二十日くらいにあるってさ」 「そうなんだ。まぁセンパイは楽勝だよねっ」 「当然!」  ……てか、“は”ってなんだよ、“は”って。 また悟先輩のこと考えてんのかよ。 「あれじゃない? 3年生は最後の大会だしさ、さすがの悟先輩でもベンチ入りさせてもらえたりすんじゃない?」 「えっ?」  先輩は一瞬嬉しそうな顔をしたけど、すぐに唇を噛んで首を振った。 「ムリムリ。頑張ってきたのは悟だけじゃないもん。実力がないのに入れたら、みんなが納得しないでしょう」 「まあね」  わかってんじゃん。 先輩には悪いけど。多分今回も、悟先輩が選ばれることなんてないよ。 「てか先輩はどうなのさ。出られんの?」 「もちろん! ……て言っても、うち長距離二人しかいないからさっ。だから自動的に出られるだけなんだけどね」 「へぇー。でも出るんだったら、観に行っちゃおっかな」 「えっ、いいよいいよ」 「なんで? いいじゃん」 「やだよぉ。だってめちゃくちゃ遅いもん」  そんなのわかってるよ。 俺はただあの、黒地に赤とピンクの細いラインの入ったユニフォーム着て、ビシッと走る姿が見たいだけだもん。 土埃が舞ってる狭い校庭じゃなく、広い競技場でさ。 いつも履いてるピンクのランニングシューズで本気で走る、先輩の姿が観たいだけ。  速く走る先輩なんて、別に期待してないよ。なんて言ったら…… さすがに怒るかな?
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