・諦めと決意・

2/2
前へ
/20ページ
次へ
「あっ、今笑ったでしょう」 「えっ?」 「遅いって言ったって、もちろんビリではないからね!」 「別にビリだなんて、思ってないって」 「ホントに?」 先輩は眉間にちょっとだけしわを寄せて、疑うような目を向けた。 だけど。 次の瞬間には、あっ、猫!と言って、突然走り出した。  数メートル先をのんびり横切ろうとしてた黒い猫は、先輩の足音に驚いて慌てて逃げ出した。 先輩はぱたっと足を止めると、残念そうな顔で振り返った。 「逃げられたぁ」 「いや、あんなにバタバタ追いかけたら、そりゃ逃げるっしょう」 先輩はそっか、と苦笑いして、畑に逃げ込んだ猫を名残惜しそうに見送った。  最初の頃の先輩は、いつも笑ってる人、って印象しかなかったけど。 当たり前だけど、それだけじゃなかった。  ほっぺた膨らませて拗ねたり、眉間にしわ寄せて怒ったり。唇を尖らせて悔しがったり、視線を落として泣くのを我慢してたり……  すぐに笑顔に戻っちまうから気づけなかったけど、何気にころころ表情が変わってることに気づいた。  そんな先輩と一緒にいると、楽しいし見てて飽きない。 帰り道がもっと長ければいいのに、って…… やっぱり今日も思ってる。 「……ねっ?」 後ろ姿を見ながらそんなことを考えてたら、先輩が突然振り返った。 「えっ、なに?」 慌てて聞き返したけど、先輩は肩をちょっと上げて、首を振った。 「聞いてなかったなら、いいやっ」 「なになに? ちゃんと聞くから、もっかい言ってよ」 「いいよ。別に大した話しじゃないし」 先輩は苦笑いして、また前を向いた。  あーあ。先輩が “悟先輩の好きな人” じゃなかったらな。 そしたらなんも考えずに、告れんのに。  まぁ先輩の好きな人も悟先輩なんだから、告ったところで結局振られんのはわかってるけど。 でも可能性がゼロとは、限んねぇもんな。 てか悟先輩が告る可能性のほうこそゼロに近いんだから、そもそも遠慮してやる必要なんてなくね?  そんな風に考えてたら、悩むのが馬鹿馬鹿しくなってきた。  せっかく先輩のために、傘買ったんだし。 もしもメンバー発表当日までに、先輩のためにこの傘を使うことがあったら…… そしたらそん時、告っちまおう。  告って振られて。んで、すぱっと諦めてやる! 「……ねぇ、梅雨が明けるのっていつ頃だっけ?」 「どうだろう。あと一週間くらいかなぁ?」 「そっか……」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加