・傘と涙雨・

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「総体終わったら、引退だね」 「うん。私はベスト出したところで県には行けないだろうし。夏休みまでかな」 「そっか。じゃあ二学期になったらもう、帰りに会うこともなくなるね」 「そっかぁ……、下校時間合わなくなるもんね」 「……寂しい?」 「そうだねっ。せっかく友だちになったのに、残念だよね」 そう答える先輩の声は、いつもの明るい声に戻ってる。 でもさ……  残念、てなんだよ。 寂しいの? 寂しくねぇの?  聞かなくたってわかってることなのに、やっぱりはっきりと確かめたくなった。 「じゃあさ……、つき合っちゃう?」  重くなんないように。 だからって冗談として流されない、ギリギリのトーンで言ったつもりだった。 だけど。  先輩が足を止めるのと同時に慌てて傘を引っ込めると、 「えぇ~っ?」 と笑いながら振り返った。 で、そのまま俺の顔をちらっと見上げると、またまたぁ~、と笑い飛ばして歩き出した。  俺の告白は、本気にすらしてもらえなかった。  そりゃこうなることくらい、予想はしてたけど。 いや、ちょっとくらいは迷ってくれること、期待してたのに…… 呆気なく終わっちまった。 先輩があまりにも鈍感すぎて、マジだよ?とか言う気にもなれねぇ。  でもまぁ、俺にはバスケがあるし。 県総体も待ってるし。 先輩のことは潔く諦めて、惨めで可哀想な悟先輩に、譲ってやるか…… 「───実はさ、美里が…… あ、女バスの」 「うん。この間告られた、って言ってた子だよね?」 「そう。その美里がさ、なんか俺のこと、まだ好きらしい」 「え~っ、なにそれ自慢~?」 「まぁね」 「で? で? つき合うの?」 「ん~、考え中。先輩はどう思う?」 「かわいい子だったもん。つき合っちゃいなよぉ」  俺のことなんて、マジでなんとも思ってないんだな。 もうどぉでもいいやっ。 「……じゃあ、そうしよっかな」  先輩はにこにこ笑って、何度も首を縦に振った。 「てか、先輩のほうこそどうなの?」 「ん? どう、ってなにが?」 「悟先輩のこと。本当に好きじゃないの?」  先輩は驚いた顔で俺を見上げると、またわかりやすく目を泳がせて、何度も首を振った。 「ないないないない」 「マジで?」 「もう。同じこと何度も言わせないでよ」 先輩は真っ赤な顔でほっぺたを膨らませると、ぷいっと顔を前に戻して歩き出した。  さっきより線の太くなった雨が、そんな先輩の髪を濡らす。 いつも通り半歩後ろを歩きながら、もう一度先輩の背中に、傘を握った手を伸ばした。
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