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あーあ。
先輩が本当の気持ち、言ってくれてたら……
そしたらちゃんと、悟先輩も千波先輩のこと好きみたいだよ、って教えてやったのに。
なんなら悟先輩のこと、けしかけてやったってよかったのに。
悟先輩のことなんて好きじゃない、って言ったのは、千波先輩だもんな。
だから教えてやんない。
そこまでしてやるほど、お人好しじゃねぇし。
馬鹿みたいにいつまでも、両片想いしてればいい。
さらに粒のデカくなった雨が、傘からはみ出した左側の肩を濡らす。
先輩は自分のことを棚に上げて、偉そうに美里とのことにアドバイスしてる。
相槌を打ちながら、先輩が振り返るタイミングに合わせて傘を持つ手を引っ込めて。
そんなことをしてるうちに、先輩にいつもの笑顔が戻ったように見えた。
「……ねぇ、わかった? 家帰ったらすぐ、美里ちゃんに電話するんだよ?」
「まぁ、そのうち」
「だからぁ、そのうちじゃ駄目なんだって。こういうことは、男の子のほうからバシッと決めてくれないと」
なんかやたらと実感こもってね?
きっとまた、悟先輩のこと思い出してんだろうな。
あんだけわかりやすくちょっかい出してんだから、いっそのこと告っちまえばいいのに。
けどやっぱ、自分から告んのは勇気いるもんな。
悟先輩のほうから、告って欲しいよな……
「あぁ……、悟先輩も、全然バシッと決めらんないタイプだよね」
「ちょっ、なんでまた悟が出てくるわけ?」
先輩はわかりやすく動揺した。
「えっ、だって数少ない共通の知り合いでしょ? 先輩が言ってたんじゃん」
「それは、そうだけどさぁ…… でも今の話には関係なくない?」
「ん? あぁ~、シュートのことだよ?」
「えっ、シュート?」
「そっ。悟先輩ガリだからさ。弱々なへなちょこシュートしか打てない、って話」
先輩に傘を押しつけて、悟先輩の貧弱なシュートの真似をして見せた。
「ちょっ、さすがにそこまで酷くなくない?」
先輩は俺のリュックをバシバシ叩いて、けらけらと笑った。
結局……
先輩を泣かせんのも笑わせんのも、悟先輩なんだな。
俺のが背が高いし、バスケだって上手いし。女心もわかってて、帰り道だって一緒なのに……
それでも先輩には、悟先輩しか見えてないんだな。
もうどぉでもいいや。
夏休みの間に、先輩のことなんて忘れてやるよ。
テスト前で部活がない時にはまた、帰り道で見かけることがあるかもしんねぇけど。
でももう、俺からは声かけてやんねぇ。
そん時になって寂しいって思ったって、もう遅ぇんだからなっ!
潔く!……って、思ってたのにな。
未練たらしく背中に悪態ついてる自分に、笑えてきた。
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