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「そっかぁ……、昇辞めちゃったんだぁ?」
結局昇は、ひと月も保たずに退部した。
「練習キツくてついてけない、って」
「だってバスケ部、ホントにキツそうだもん」
「まぁ。でもやる気の問題でしょ? 俺は入部した頃から、ちゃんとついてけてたし」
「凄いよね、1年生からスタメンなんて。真面目に練習してたって、ベンチ入りすらできない人だっているのにね」
「ん? あぁ……、悟先輩?」
「うん、そう。私もそうなんだけどさ、やっぱチビは不利なのかな。頑張ってるつもりなんだけど、なかなか記録伸びなくて」
「さぁ、どうなんだろ。多少は関係あんのかもしんないけど」
「センパイは背も高いし、がたいもいいもんね」
「それ」
「え?」
昇がいつも情けない声でセンパ~イ、って呼ぶのを真似してるうちに、先輩まで俺のことを“センパイ”って呼ぶようになってた。
昇と一緒にいると1年生にしか見えないから違和感なかったけど、さすがにちょっと照れくさい。
「昇いなくなったのに、まだ使うの?」
「なんで? 別によくない? 呼びやすいし」
先輩はいつものように半歩前を歩きながら、くるっと俺を振り返って答えた。
昇がいなけりゃ接点もないし、話しかけられることもなくなるだろうと思ってたけど。
校内でも下校中でも、先輩は俺に気づくといつも必ず手を振ってくれたし、当たり前のようにこうして一緒に帰ってる。
先輩はどんな時も基本笑顔で、跳ねるように歩いてる。
だから一年間気づかなかったのが嘘みたいに、いつの間にかどこにいてもすぐ、目につくようになってた。
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