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・戸惑いと苛立ち・
外練はきついし汚れるから好きじゃない。だけど先輩の存在を知ってからは、楽しみになってた。
部活の時だけ履いてるピンクのランニングシューズが目印になって、バスケットコートの前を通り抜けるたびにつられて見てしまう。
朝練の時に痛めた足のせいで今日は、コートの外での筋トレになった。
おかげでいつもよりじっくり、先輩の走りを観察することができる。
長距離のことはよくわかんないけど、遠目に見ても綺麗なフォームに感じた。
他の部を避けるように、バックネット、鉄棒、バレーボールコートの外側を大回りして軽快に走ってる。
普段は見せない真剣な表情で、そのままバスケットコートに近づいてきた。
先輩のことだから俺に気づいたら手くらい振るだろうと目で追ってると、バスケットコートの手前で少しスピードが落ちたことに気づいた。
だけどコートの前を通り過ぎると、俺に気づくことなくまた加速してった。
そういう練習方法なのかな、とも思ったけど、次にまわってきた時によく見ていると、さり気なく目線をコートに向けてることに気づいた。
たまたまかとも思ったけど、その次もまたその次も同じようにコートを見て、また加速してった。
なに見てんだろ……
気になってそのまま目で追っていると、減速しかけた先輩が急に加速し始めた。
と同時に、コートから悟先輩が出てきた。
「丸~、そろそろ中入って、1年生のシュート練習見てあげて」
「はぁ」
千波先輩の不自然な行動が気になって、上の空で返事した。
今たしかに減速しようとしてたよな? なのになんでやめた?
悟先輩が出てきたから?
それともたまたま?
別にそんなのどうだっていいはずなのに、気になって仕方ない。
コートの一番奥に移動してシュート練を見ながらも、校庭のほうをチラ見してた。
先輩はまだ、コートの前で減速と加速をくり返してる。
でもフェンスが邪魔で、先輩の目線はよく見えなくなった。
マジでなに見てんだ?
……あっ、もしかして俺?!
コートの外にいたこと気づかずに、ずっと俺のこと探してるとか?!
そんな理由にたどり着いて、思わず苦笑いした。
だけど。
その次にまわってきた先輩の顔はなぜか、真っ直ぐ前を向いたままだった。
不思議に思ってその方向に視線を動かすと、その先には予備のテーピングを取りに行くためにコートを出た、悟先輩の背中があった。
えっ、それってつまり……、そういうこと?
まさか先輩は、悟先輩のことが……、好き?!
そう気づいた瞬間、なにかが突き刺さったみたいに、胸が痛くなった。
なにこれ。
は? まさかショック受けてるとか?!
いやいや。先輩なんて、全然タイプじゃねぇし。
寝癖があってもそのまま学校に来ちゃうとことか、女にすら思えねぇし。
ありえねぇだろ。
目を瞑って小さく頭を振った。その時。
「先輩!」
1年生の声に顔を上げると、目の前までボールが飛んで来てた。
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