・戸惑いと苛立ち・

2/3
前へ
/20ページ
次へ
「センパイ、さっき大丈夫だった?」  部活が終わって悟先輩と校門に向かって歩いてると、すっと回り込んできた千波先輩が、心配そうに顔を覗き込んだ。  あの時…… 後輩の声に慌てて手を出したけど、間に合わなくて。 飛んできたボールが顔面に直撃して、運悪く鼻血まで出た。 それを千波先輩にも見られてたらしい。 「えっ、あぁ……、全然」 「ホント? まだなんか赤いけど」  そう言うと先輩は、まだひりひりしたままの俺の鼻をじっと見た。  先輩とはしょっちゅう一緒に帰ってるから、こんな距離慣れてるはずなのに。なんだか落ち着かない。  そっか。いつもふにゃふにゃ笑ってるだけのくせに、がっつり目ぇ開いて見てるから…… そう言や先輩の顔まともに見たの、初めてかも。 黒目がでかくて、まつ毛もまあまあ長くて。 ……あれ? 意外とかわいくね?  そう気づいた瞬間。さっきみたいに胸が痛くなって、思わず眉間にしわを寄せてしまった。 「えっ、大丈夫? やっぱりまだ痛いんじゃない?」  勘違いした先輩の手が、鼻に向かって伸びてきた。 「いや、ホントに平気」  咄嗟に後退りして、首をぶんぶん振った。 一応笑って見せたけど、多分かなり引きつってるはず。 「ならいいんだけど……」  先輩は信じてないみたいに口を尖らせて言うと、隣に立ってた悟先輩のほうに目線をずらした。 「なに?」  聞いたこともないような、無愛想な言い方。 驚いて悟先輩のほうを見ると、耳が真っ赤になってた。 「別にっ」 と千波先輩はいつもの口調で言い返したけど、顔は少し引きつってるように見えた。 だけど悟先輩が前を通り過ぎようした瞬間、小さくほっぺたを膨らませたかと思うと、無言で先輩の二の腕をグーで殴った。 「いってぇ……」  悟先輩が足を止めると、千波先輩はわかりやすく表情を明るくした。 「これくらいで? 鍛え方が足りないんじゃない?」  先輩はねぇ?と俺に同意を求めると、いつもの子どもっぽい笑顔で、悟先輩を挑発した。 それに釣られるように、悟先輩も表情を崩した。 「そっちは鍛えすぎなんじゃないの? 大根ふたつもぶら下げてさっ」  千波先輩はよくわかったね、と言ってにやっと笑うと、 「悟を蹴っ飛ばすためにね~」 と言いながら先輩のケツに蹴りを入れて、その流れのまま、校門のほうに歩き出した。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加