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「センパイ、さっき大丈夫だった?」
部活が終わって悟先輩と校門に向かって歩いてると、すっと回り込んできた千波先輩が、心配そうに顔を覗き込んだ。
あの時……
後輩の声に慌てて手を出したけど、間に合わなくて。
飛んできたボールが顔面に直撃して、運悪く鼻血まで出た。
それを千波先輩にも見られてたらしい。
「えっ、あぁ……、全然」
「ホント? まだなんか赤いけど」
そう言うと先輩は、まだひりひりしたままの俺の鼻をじっと見た。
先輩とはしょっちゅう一緒に帰ってるから、こんな距離慣れてるはずなのに。なんだか落ち着かない。
そっか。いつもふにゃふにゃ笑ってるだけのくせに、がっつり目ぇ開いて見てるから……
そう言や先輩の顔まともに見たの、初めてかも。
黒目がでかくて、まつ毛もまあまあ長くて。
……あれ? 意外とかわいくね?
そう気づいた瞬間。さっきみたいに胸が痛くなって、思わず眉間にしわを寄せてしまった。
「えっ、大丈夫? やっぱりまだ痛いんじゃない?」
勘違いした先輩の手が、鼻に向かって伸びてきた。
「いや、ホントに平気」
咄嗟に後退りして、首をぶんぶん振った。
一応笑って見せたけど、多分かなり引きつってるはず。
「ならいいんだけど……」
先輩は信じてないみたいに口を尖らせて言うと、隣に立ってた悟先輩のほうに目線をずらした。
「なに?」
聞いたこともないような、無愛想な言い方。
驚いて悟先輩のほうを見ると、耳が真っ赤になってた。
「別にっ」
と千波先輩はいつもの口調で言い返したけど、顔は少し引きつってるように見えた。
だけど悟先輩が前を通り過ぎようした瞬間、小さくほっぺたを膨らませたかと思うと、無言で先輩の二の腕をグーで殴った。
「いってぇ……」
悟先輩が足を止めると、千波先輩はわかりやすく表情を明るくした。
「これくらいで? 鍛え方が足りないんじゃない?」
先輩はねぇ?と俺に同意を求めると、いつもの子どもっぽい笑顔で、悟先輩を挑発した。
それに釣られるように、悟先輩も表情を崩した。
「そっちは鍛えすぎなんじゃないの? 大根ふたつもぶら下げてさっ」
千波先輩はよくわかったね、と言ってにやっと笑うと、
「悟を蹴っ飛ばすためにね~」
と言いながら先輩のケツに蹴りを入れて、その流れのまま、校門のほうに歩き出した。
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